日本との“関係改善”の狙い

北朝鮮側の思惑として想定されるのが、「日本との関係改善」である。

「大陸弾道弾ミサイル(ICBM)実験や核実験を行っている北朝鮮に対して、日米韓の三カ国は“キャンプデービッド・プロセス”と呼ばれる安全保障体制の強化をお互いに確認しています。日米韓の軍事的連携は北朝鮮にとって大きな脅威となる。そこで日本に秋波を送ることで、キャンプデービッド・プロセスに揺さぶりをかけたい、ということが1つの目的だと思います」(前出・韓国人ジャーナリスト)

北朝鮮が日米間の強固な体制に揺さぶりをかけようとする背景には、北朝鮮と韓国との関係悪化があるといわれている。

金正恩氏は韓国との関係について「もはや同族関係ではなく、敵対的な国家関係、戦争中の交戦国関係」と宣言しており、北朝鮮に対して強硬的な尹錫悦政権との対決姿勢を強めている。「軍事衝突がいつ起きてもおかしくない」(同上)と言われるほど緊迫度が高くなっているなかで、日本と関係回復を行うことができれば日韓の足並みを乱すことができる、というのが北朝鮮側の目論見とみられる。

「軍事衝突がいつ起きてもおかしくない」といわれる韓国と北朝鮮
「軍事衝突がいつ起きてもおかしくない」といわれる韓国と北朝鮮
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北朝鮮の「瀬戸際外交」という言葉は有名だが、その外交戦略の基本は「カックン理論」だといわれている。「カックン理論」とはかつて金日成氏が提唱していたもので、“カックン”とは朝鮮の知識層が被った伝統的な帽子の顎紐のことを指す。

紐の一方だけ切れば日米韓の三国間のバランスを崩すことができる……すなわち、韓国の力を奪うためには日本、米国のどちらかを揺さぶればいいという意味でカックン理論と名付けられているのだ。

簡単に言えば文在寅政権時代のように北朝鮮と韓国が友好的なときは歴史問題などで日本を攻め、いまの尹錫悦政権のように北朝鮮と敵対的なときは日本に近づき関係を深めることで、日米韓の足並みを乱そうという戦略なのである。

前出の韓国人ジャーナリストが「亡命した元北朝鮮の高官に聞くと、金正恩氏の電報は『米韓を遮断し、日本政府と日本国民の感情を攻略するものに見えますね』と言っていました。揺さぶりであることは間違いがない」と指摘するように、金正恩氏もこのカックン理論を踏襲する形で外交戦略を練っている可能性が高い。