新たな拉致を認めた北朝鮮

北朝鮮はストックホルム合意後の水面下交渉で、2014年秋と2015年に重大な情報を日本側に通達していた。政府認定拉致被害者である田中実さんと、認定はされていないが拉致の可能性を排除できない行方不明者の金田龍光さんが、平壌で生存しているというのだ。

田中実さんは神戸出身。幼いころ両親が離婚し、養護施設で育った。金田龍光さんも同じ施設で育ち、同じラーメン店で働いていた。その店主が北朝鮮の工作員で、田中さんはそそのかされて1978年6月6日に成田からオーストリアのウィーンに向かい、陸路でモスクワへ移動し、平壌に入った。その後、金田さんのもとに筆跡が異なる「田中さん」からの手紙がオーストリアから届き、上京、行方不明となる。

北朝鮮は、田中さんについては2014年まで「未入国」としていたのに、一転して拉致を認めたのである。

しかし政府は、この情報を公表しなかった。そのことから、拉致問題を「最重要課題」と称していた安倍政権の本音が見える。横田めぐみさんや有本恵子さんたち「死亡」したとされる拉致被害者の「生存」情報でなければ認めないのだ。

政府の「極秘文書」には、蓮池夫妻が目撃した日本人男性が誰かを特定するため、田中実さんの写真を見せたが、判断がつかなかったとある。

〈(祐木子さん)83年か84年頃、管理員(世話係)のおばさんから、「反対側の地区の1号と2号に年配の男性2名がいる。一人は労働者でおばさんが結婚したがっている。もう一人は料理士で痩せている。4・25(注:人民軍創建記念日)の時に軍への差し入れ料理を綺麗に盛り付けていた。両方とも朝鮮語はできない。」と聞いた。自分は2地区に移った後にその「年配の男性」らしき男性2名が映画館から出てくるのを遠巻きに見たことがある。二人とも背は低く、一人は痩せ型、もう一人は太っていた。年齢は40代ぐらいだった。(ここで当方より、原さんと田中実さんの写真を見せたところ)顔はあまり覚えていないので、よく分からない〉(〈蓮池夫妻に対する聴取〉)

田中さんと金田さんは、蓮池夫妻、地村夫妻、曽我ひとみさんとは異なる組織によって拉致されたのだろう。