交渉は両刃の剣、“対価”の要求は明白

岸田政権と北朝鮮側との水面下交渉については、2023年9月29日に朝日新聞がスクープ。記事によると《北朝鮮による拉致問題の解決に向け、日本政府関係者が今年3月と5月の2回、東南アジアで北朝鮮の朝鮮労働党関係者と秘密接触していた、と複数の日朝関係筋が証言した。

岸田首相は北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談に向けた環境整備を進められるとみて、今秋にも平壌に政府高官を派遣することを一時検討していた》とされ、岸田政権が金正恩氏との日朝首脳会談を模索していたことが明らかになったのだ。

さらに今年の1月11日には林芳正官房長官が、北朝鮮による拉致被害者の横田めぐみさんの母・早紀江さんや、めぐみさんの同級生による「横田めぐみさんとの再会を誓う同級生の会」(池田正樹代表)のメンバーと面会をし、再び拉致問題への取り組みをアピール。昨今、PRポイントの少ない岸田政権にとっては、拉致問題の進展は「悲願」となっている状況だともいえる。

電撃訪朝はあるか…
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しかし、北朝鮮との交渉は諸刃の剣でもある。

北朝鮮と交渉すれば、北朝鮮側が日朝首脳会談および拉致被害者帰国の“対価”を要求してくることは明白だからだ。

例えば植民地時代の賠償金の要求や、食料支援を取引条件になど、つまり、金正恩政権延命のために利用されてしまう可能性が高いし、そもそも北朝鮮は「拉致問題は解決済み」という立場を堅持している。

これまで北朝鮮の非道な振る舞いを長く見せつけられてきた日本国民にとって、仮に岸田政権が北朝鮮側の条件を呑むような妥協案で手打ちをしてしまえば、支持率が上がるどころか世論の大きな反発を受けるということもあり得る。場合によっては政権にとって致命傷となる可能性すらあるシビアなものとなるだろう。

金正恩氏の電報によって浮彫りとなった日朝間の歩み寄り。“外交の岸田”を自認する岸田文雄首相にとっては、その本当の真価が試されることになりそうだーー。


取材・文/赤石晋一郎 集英社オンライン編集部ニュース班