地球は骨の堆積物

日髙さんを遠いお手本に、ぼくも幼稚な質問(疑問かな)をもとう。

「地球にはこれまでどのくらいの人の骨が残されてきたのだろう」

幼稚な質問だから答えは簡単である。

「これまで地球に生まれてきた人の数ぐらいである」

・人類誕生以降、現在までの人口累計数

・現在の人口数

・骨の自然風化の平均年数

とりあえずこの3つの要素を基礎に計算していくとなんらかのおおざっぱな数字が導きだされる筈である。

この基礎的要素に、

・人類誕生以降の、災害による死者数

・同じく、あらゆる戦争による死者数

なんていうのを加えていくと、生物的寿命を全うできなかったヒトの骨の数、などというものが導きだされるのではないだろうか。

「導きだしてどうする?」と、言われても困るのだが……。

かつて寺は死者にとっては「狭き門でエリートの死」だった…野ざらしでの風葬や鳥葬が当たり前だった江戸時代〈椎名誠が思う葬送〉_3
写真はイメージです
すべての画像を見る

話は変わるが、ぼくの菩提寺は静岡の千本松原にある禅寺である。親族の葬儀があったりするとその墓に行く。そこそこ長い歴史のある家系だったらしくかなり大きな面積にいろいろな供養塔がたち、中央にある大きな花崗岩にわが一族の家紋が入っている。葬儀となるとその塔の下に骨を入れる地下埋葬スペースがあり、この仕組みの墓をカロウト式というらしい。

葬儀のたびにちょっとした墓あばきが繰り返されるのだ。

ぼくは視線を低くしてその中をちらりと見てしまう。暗い奥のほうにむかっていくつもの骨壺が置いてあるのが見える。名前は知っているが誰の骨がどの壺にあるのかなどということはまるでわからない。

やがてぼくもあのなかに入るのだろうか、と思うと歳ごとに陰々滅々とした気分になる。もっと明るく開放的な「終の住処」を求めてはいけないのだろうか。


文/椎名誠
写真/shutterstock

#3に続く

「自分がいつか死ぬ」ということを知っている人間という生物
日本にしか存在しない間に仕切りのあるベンチ
人は孤立死、孤独死をとても辛いものと強く思っている

遺言未満、
椎名誠
かつて寺は死者にとっては「狭き門でエリートの死」だった…野ざらしでの風葬や鳥葬が当たり前だった江戸時代〈椎名誠が思う葬送〉_4
11月17日発売
726円
288ページ
ISBN:978-4-08-744589-3
その時、何を見て何を想い どう果てるのか。

空は蒼く広がっているのだろうか。風は感じられるのだろうか――
作家、ときどき写真家がカメラを抱えて迷い込んだ“エンディングノート”をめぐる旅17。

お骨でできた仏像、人とのつながりの希薄さが生む孤独死の問題、ハイテクを組み合わせた最新葬祭業界の実情――。

「死とその周辺」がテーマの取材は、かつて経験した九死に一生の出来事、異国で出合った変わった葬送、鬼籍に入った友人たちの思い出などと重なり、やがて真剣に「自分の仕舞い方」と向き合うことになる。

シーナが見出した新たな命の風景とは?
amazon 楽天ブックス honto セブンネット 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon