選挙は候補者に「問い合わせる」と面白い
前田 なるほど…。話を戻して、私がド肝を抜かれた話をしていいですか?
畠山 えっ、何でしょう。
前田 私たち(制作スタッフ)の間では、畠山さんは「穏やかな狂気のひと」と言われているんです。昨年の参院選は34人、候補者がいました。「この中に一人だけ、有権者とキャッチボールをしようとしない人がいます」と畠山さんが言っていたんですよね。それは、HPとかに問い合わせ窓口がまったく設けられていないという意味で。私はそういう視点で候補者を見たことがなかったので、穏やかながらも「狂気」を感じたんです。
畠山 えっ、そうですか? そもそもwebサイトをつくっていない人もいましたけど、普通、主要政党が推している候補者であれば、「みなさんの声を聞かせてください」と体裁だけでも窓口をつくるものじゃないですか。
前田 そこに気がつく畠山さんに、私はびっくりしました(笑)。
畠山 実際、その候補者の街頭演説の予定を聞こうとしたときに、「あれ、どこに聞けばいいの?」と困ったんです。だけど、そうか、一般の方は問い合わせをしようとは思わないんですね。ゼッタイ、問い合わせしたほうがおもしろいのに。
前田 そうなんですか?
畠山 電話するとわかりますから。落選する人の事務所は、電話の声が暗いんです。結果が出る前から。後ろでザワザワしている事務所は活気があって、勢いがあるんですけど。
なかには「ワンルームの風呂場で受けているのかなぁ」というくらい反響する事務所があって、「はい。〇〇事務所です」と言った瞬間、間取りまで想像できてしまう。
前田 それは、畠山さんが長年、電話をかけ続けているからなんでしょうねえ。
畠山 でも、自分が聴きたくないことは聴こえなくて。家族によく怒られています。「さっき言ったのに、聴こえてないの」って。
前田 話が変わるんですけど、畠山さんは嫉妬することありますか?
畠山 しっと?
前田 たとえば、大手新聞のスター記者とかに。
畠山 うーん。「やられたなあ」というのはありますけど。たとえばルポライターの常井健一さんが中村喜四郎さんをインタビューして『無敗の男 中村喜四郎全告白』(文藝春秋)を書かれたときには「やられた!!」と思いました。でも、それは嫉妬ではなく、お見事というしかない仕事でした。
前田 その中村さんは、もともと畠山さんのほうが取材は先にされていたんですよね?
畠山 僕は2005年から中村喜四郎さんを追いかけ始めたのですが、常井さんのほうが熱い手紙を書いていたんですよね。それで常井さんに「喜四郎さん、僕のインタビューには応えてくれなかったんだけど」と言ったら、「手紙を書くときは伊東屋の便箋を使ったほうがいいですよ」というんですよね。常井さんから熱心な手紙をいただいて、というのはいろんな人から聞きますから。しかも、取材を終えてからもお礼の手紙を送っているんですよね。
前田 畠山さんは、手紙は?
畠山 (取材の)壁が厚いときには書きますね。中村喜四郎さんには、僕も手紙は書いてはいたんで。でもダメでした。
前田 「なんだよ」みたいに思うことはないんですか?
畠山 理由ははっきりしていますから。常井さんは俺より一生懸命にやったんだろうとわかるし。だから尊敬ですよね。次こそは自分が、とは思いますけども。