富士演習場の大きさは東京ディズニーリゾート約46個分

手数料200円也で「入山鑑札」という名のディストピアへのパスポート(2ヶ月間有効)をゲットした僕は、さっそく北富士演習場へと向かいました。旧鎌倉往還である国道138号線を富士山側に折れ、東富士五湖道路のガードをくぐると、演習場のゲートが見えてきます。

普段、一般車両はここまでしか行けませんが、今日は立入日のためゲートは開いており、受付も何もなくフリーパスで演習場へと入ることができました。あとはまったく自由に、4597ヘクタール、つまり東京ディズニーリゾート約46個分という、異様にだだっ広い原野の中を走り回ることができます。

ディズニーリゾート46個分! 自衛隊のガチ演習場に一般人が立ち入りできる理由とは「不発弾が落ちているかもしれないので、金属片には触れないでくださいね」_3

場内はダート道が縦横に張り巡らされていますが、カーナビに表示されないし、ところどころ設置されている案内表示は自衛隊の中の人用の非常にざっくりしたものなので、基本的に自分が今どこを走っているのか、さっぱりわかりません。後から調べたところによると、Googleマップの航空写真表示を使えば、ある程度の道はわかるそうですが、そんな知恵は浮かばなかったので、僕はただ闇雲に走り回りました。

でも、自分の勘だけに頼って走っていると、当初の「毒に侵された苦しみの荒れ地を一人さすらう」という妄想に浸りやすく、なかなかいい感じです。僕の車に搭載されているのはV8エンジンではなく、水平対向4気筒エンジンですが、さすがは走破性に定評のあるスバルだけあって、ダート道を快調に走ってくれます。

数多い不発弾に関する注意書きだけではなく、「戦車射場」「RL(ロケットランチャー)射座」「弾着区域 危険」などという標識に、男心がいちいちざわめきます。

やや薄曇りの日でしたが、富士山や山中湖の眺めも素晴らしく、「ああ、来てよかったな〜」と晴れやかな気分になりました。

ただ納得いかなかったのは、確かに教頭の言っていたとおり、オフロード走行目的の人たちの多いこと。っていうかゲートもフリーパス状態だったし、あの人たちそもそも入山鑑札をもらっているのか? と訝しく思いました。先生にきちんと話にいった人だけが、なぜか職員室で説教を食らうという〝優等生あるある〟パターンではないか!

そんなことを考えていたら、せっかくの気分がモヤモヤしはじめたので、カーオーディオでバカやかましいハードコアパンクや、最近のマイブームであるインダストリアルミュージックを大音量で流し、窓全開で走り回りました。もちろん安全な速度で。そしたら、あら不思議。気分は再びスッキリ。

禁忌されているオフロード走行ばかりがここの楽しみ方ではありません。たまにすれ違う車以外、見渡す限り誰もいない原野なので、僕のような音楽好きは爆音で曲をかけるとめちゃくちゃ楽しく、いい気持ちになれます。大声で歌ったり、思い切り楽器を弾いたとしても、誰にも文句は言われません。野鳥や植物、昆虫観察、山菜採取……、それにコスプレマニアには絶好の撮影ポイントがたくさんあります。

キャンプや火気の使用はNGとか、一定の制約はありますが、十人十色の楽しみ方が必ず見つけられる場所なので、ぜひ一度行ってみることをおすすめします。その際は教頭先生へのご挨拶、つまり入山鑑札取得を忘れずに。

写真・文/佐藤誠二朗

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『山の家のスローバラード 東京⇔山中湖行ったり来たりのデュアルライフ』
佐藤誠二朗 (著)
ディズニーリゾート46個分! 自衛隊のガチ演習場に一般人が立ち入りできる理由とは「不発弾が落ちているかもしれないので、金属片には触れないでくださいね」_4
2023年11月15日発売
2200円(税込)
264ページ
ISBN:978-4991203923
東京で生まれ育ち、働き、家族をつくってきた筆者は、なぜデュアルライフ(二拠点生活)を始めたのか。東京と山中湖を行き来しながら暮らす日々を軽快に綴ったエッセイ集。コロナ禍を経て、新たな暮らし方を模索する全てのひと必読の書。

著者が山中湖村にある“山の家”を手ごろな価格で手に入れたのは2017年のこと。以来、東京の家との二拠点生活=デュアルライフがはじまる。コロナ禍で「この機会に景色のいいところに住んでみよう!」と思った人も少なくないはず。ここにはそんなデュアルライフのリアルが描かれている。
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