入山鑑札をもらうため訪ねた、組合の事務所で待っていた試練
そんなわけでまずは、富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合役場(ふじよしだしほかにかそんおんしけんゆうざいさんほごくみあいやくば)という早口言葉のような施設を訪ねます。こうしてしっかり下調べし、申請しようとしている時点で、ディストピアでもなんでもないのですが、こういうのはちゃんとやらなければなりません。役場事務所で職員さんにおずおずと「あのー、入山鑑札をいただきにきたんですけどぉ……」と声をかけます(こんなマッドマックス、いたら嫌ですね)。
対応してくれたのは、中学校の教頭先生タイプの、真面目そうな初老男性職員。メガネの奥の鋭い眼差しで僕の風体を一瞥すると、低いテンションで「どうぞ」とデスク前の椅子を指し示します。そして「どこの山に入ろうとお考えですか?」と尋ねられました。急に面接みたいなのが始まり、ソワソワしてしまいます。
僕「え、あのー。北富士演習場に」
教頭「なるほど。私どもの管理地です。どんな目的で?」
ヤバい。なんか、冷や汗が出てきました。この教頭先生に対し、怒りのデスロードがーとか、爆裂都市(バーストシティ)がーとか、レプリカントがーなんて答えても埒が開かなそうです。
「はあ、なんと言いますか。あのその。自然や景観を楽しむために。写真など撮ろうと思っていまして」
しどろもどろで、でもできる限り正直に答えました。
「わかりました。実はですね……」
教頭先生の説明によると、他所から来て演習場に立ち入ろうとする人に、危険なオフロード走行目的が多く見受けられ、大変な問題になっているとのこと。未舗装路を猛スピードで走る彼らによる事故も多発していて、警察も入り厳重警戒をしているということでした。まあ、道なき道を走ってみたいという目的は一緒かもしれませんが、サブカル派の僕のメンタルはオフローダーのそれとはまったく違い、危険運転をやりたいなどと思っちゃいません。
(滅相もない。そんな危険人物に見えますか?)と、目で必死に訴える僕に、教頭は「あなたのクルマ、車種はなんですか?」と冷静に詰問します。スバルXVであることを伝えると、教頭の顔色は一瞬さらに険しくなりました。
「四輪駆動車はすべて警戒対象になっています。鑑札は発行しますが、現地で警察に声をかけられたりするかもしれませんのでご承知おきを。そしてくれぐれも、そういった危険行為はなさらないように」と釘を刺されました。
「はい、もちろん! 大丈夫です」
思い切り爽やかな表情と声色をつくり、模範的な態度で教頭先生の面談をなんとか切り抜けました。マッドマックス感はますます薄まりましたが、背に腹は変えられません。
でも、「不発弾が落ちているかもしれないので、金属片には触れないでくださいね」という教頭先生の言葉に背筋がゾワっとし、ディストピアに向かう気分が少しだけ復活しました。