民衆レベルで世界を見つめるには

「僕たちは民衆なのに、権力者目線で戦争を語りすぎている」戦争の痛みを描き続ける塚本晋也監督が『ほかげ』と森山未來に託した平和への祈り_10

──塚本監督は映画を通して戦争の痛みを描き、次世代に悲劇を連鎖させないよう尽力されていますが、現在進行形で戦争が起こっている今、私たちが民衆レベルでできることはあるのでしょうか?

塚本 ひとつ言えることは、僕たちは民衆なのに、権力者と同じ目線で戦争を語っているのではないか?ということです。戦争が始まったら、兵士として戦地に行くのは権力者じゃない。彼らが決断し、戦地へ送り込むのは民衆の若者たちです。そして相手国も同じように、若者たちが戦地に送り込まれる。

戦争さえなければ仲よくなれたかもしれないのに、恨みのない者同士が戦わざるを得なくなるわけです。だから僕たちは民衆レベルで戦争を見つめないといけないと思います。敵も味方も死なないで済む方法はないのかと、一生懸命考えないといけないと思うんです。

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©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

そのためには、その方法を我々の民衆の力で政治に反映させていくこと。そういう観点も含めて政治家をシリアスに選んでいく。今はより選挙に行くことの重要さを感じます。

武器を持ったほうがいいと考える人、持たないほうがいいと考える人、正反対に見えますが、それぞれが身を守るため、死なないために考えた意見です。

でも政治家になると武器にお金が絡んでくる。お金のためならば民衆に不幸があっても仕方がないと考える政治家も出てくると思います。今の日本が戦争へ踏みきるとは思えませんが、不用意に武器を持ってしまうと戦争に近づいてしまう。

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だからこそ、民衆レベルで政治と戦争を考え、人が死なないために動いてくれる政治家が必要だと思っています。

映画『ほかげ』でまず、戦争の恐ろしさをリアルに痛感してもらうことができたら、と切に願います。


取材・文/斎藤香 撮影/石田壮一 ヘアメイク/須賀元子 スタイリスト/杉山まゆみ

塚本晋也
1960年1月1日生まれ。東京出身。14歳で初めてカメラを手にする。80年『鉄男』で劇場映画デビュー。この作品でローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。以降、国際映画祭の常連となり、多くの映画賞を受賞。ヴェネチア国際映画祭とは縁が深く『六月の蛇』(2002)はコントロコレンテ(のちのオリゾンティ部門)の審査員特別大賞、『KOTOKO』(2011)はオリゾンティ賞を受賞。『鉄男 THE BULLET MAN』(2009)『野火』(2014)『斬る、』(2018)はコンペティション部門出品。『ほかげ』はオリゾンティ・コンペティション部門に出品された。俳優としても活動しており、自作への出演のほか、『殺し屋I』(2001)『シン・ゴジラ』(2016)『沈黙―サイレンスー』(2016)などがある。

森山未來
1984年8月20日生まれ。兵庫県出身。5歳からダンスを学び、15歳で舞台デビュー。2013年には文化庁文化交流使としてイスラエルにダンサーとして1年滞在した。その後も国内外でダンサーとして精力的に活動をしている。俳優としての主な出演作品は『世界の中心で愛を叫ぶ』(2004)『モテキ』(2011)『怒り』(2016)『オルジャスの白い馬』(2020)『アンダードッグ』(2020)など。最新作は『大いなる不在』『iai』(いずれも2024年公開予定)

『ほかげ』(2023)上映時間:95分/日本

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戦後。女(趣里)は半焼けになった居酒屋でひとり暮らし。身体を売ることで生活をしている。その居酒屋に空襲で家族を失った少年(塚尾桜雅)と復員兵(河野宏紀)が居ついてしまい仮の家族のように。しかし、少年はテキ屋(森山未來)に仕事をもらったと女の家から出ていく。しかし、少年はテキ屋の旅の目的を知らされていなかった……。

2023年11月25日(土)より、東京・渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
配給:新日本映画社
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

公式サイト:https://hokage-movie.com