どんな医療行為にも一定の副作用が発生
ワクチン接種がなかった時と比べて、それ以上の有害事象が発生した場合は、それは「意味のある問題」として認識されなければなりません。ワクチンの副作用は、本来「システム」で合理的に自動的に検出せねばならないのです。死亡者を数えているだけでは「何も分からない」のです。日本はそういう意味でも、まだまだワクチン後進国なのです。
米国にはワクチン有害事象報告システム(VAERS)というのがあり、構造的に、自動的にワクチンの副作用リスクを検出、吟味しています。これは、ワクチン接種データと、入院などの臨床情報の突合、解析ができる「仕組み」があるから可能なのです。定期的に専門家がデータをモニタリングし、懸念すべき副作用が生じていないか確認します。
そこで問題視されたのが、前述した心筋炎です。
心筋炎は、心臓の筋肉に炎症が起きる病気ですが、ワクチン有害事象報告システム(VAERS)によって、新型コロナワクチン接種後に心筋炎が有意に多く発生していることが判明しました。「有意に多く」というのは、一般市民で普通に発生するであろう心筋炎の数よりも多く発生している(つまりは、「比較」による)ということで、それを検知し、アラートを出したのです。
心筋炎の報告では、1億9千万人以上の、3億5千万回以上という巨大なワクチン接種記録と、ワクチン接種7日以内の心筋炎の発生をモニターしました。1991例の心筋炎の報告がなされ、そのうち1626例が心筋炎の症例定義を満たしていました。性別や年齢で調整すると、その報告数は期待される心筋炎の発生数よりも多いものでした(比較)。
特に、2回目のワクチン接種を受けた16~17歳の男子で発生数が多く、ファイザーのmRNAワクチンでは100万回あたり105.9例発生していました。96%が入院を必要とし、そのうち87%は元気になって退院しました(*2)。
どんなワクチンにも、いや、どんな医療行為にも一定の副作用が発生します。が、それは解析されねばならず、ただ素朴に数を数えているだけでは本当のことは分かりません。
「ワクチン接種によるリスク」の誤解
僕らも新型コロナワクチン後の心筋炎の入院患者は経験しています。これもよく誤解されているところですが、専門家は自分たちの専門領域のリスクは熟知しています。ワクチンのリスク、抗生物質のリスク……、使っているツールの欠点を全部理解しているからこそ、使えるのです。手術後の合併症の知識がない外科医にろくな外科医がいないように、ワクチンのリスクを理解しない感染症医はだめな感染症医です。
心筋炎以外にもワクチンの副作用はあります。ぼくが経験したのは「脱毛」でした。頭髪、眉毛、まつ毛など、全身の毛が抜けてしまう有害事象が発生したのです。調べてみると、VAERSにも同様の報告がなされていました。
この事例は論文にして発表しました(*3)。
医療行為の利益もリスクも、平等に学術界で検討するのが我々専門家の責務です。だから、ワクチンで生じた可能性のある「リスク」についてはきちんと報告しなければなりません。我々はワクチンびいきでも、反ワクチンでもなく、正しい医療を希求しているのです。正しい医療には正しい情報が欠かせません。
というわけで、心筋炎や脱毛など、様々な副作用がワクチンによって起こりえます。おそらくは免疫賦活作用のために自分の体に対して免疫活動が起きて、自分の体の細胞を攻撃したためではないかと考えています。心臓の細胞や毛髪をターゲットにした炎症反応です。
しかし、じつはワクチン接種よりも新型コロナ感染のほうが心筋炎のリスクは高いのです。このことはすでに述べました。
「罹患率比(incidence rate ratio)」という、若干、ややこしい名前の指標で評価すると、新型コロナ感染後の心筋炎の罹患率比は11以上で、ワクチン接種後の5.97を大きく上回りました。ワクチンのリスクは、新型コロナ感染のリスクよりもマシなリスク、というわけです(*4)。
そうそう、「ワクチンを打っている人のほうが入院しやすい」という説がまことしやかに出されたこともありました。これはイスラエルの病院で入院患者の大多数がワクチン接種者だったために起きた話でした。