総理大臣会見の「指名NGメソッド」
冒頭の松野官房長官発言の通り、総理大臣会見の指名NGリストは確かに(物理的には)存在しないのかもしれない。それはNGリストをあえて作成する必要がないほど、不都合な質問をする記者の指名を回避する仕組みをすでに確立させているからだろう。
その方法は驚くほど簡単だ。参加する記者全員分の座席表を事前に作成し、その席次通りに着席させるだけ。自らの体験を基に、その仕組みを説明しよう。
同会見の会見室には開始30分前から参加記者は入室可能で、入口付近には官邸報道室の職員1名が待ち構えている。筆者のように内閣記者会以外の記者(フリー・外国プレス等)が会見室に入室すると、職員は手元の座席表(個人単位で席次を記載)を見ながら、「今日の犬飼さんの座席は3列目の一番右です」などとご丁寧に席まで案内してくれる。
例えば2022年10月28日の首相会見で、筆者が部分的に再現した座席レイアウトは以下のようなイメージだ。
*1~2列目は常勤幹事社19社、3列目以降がそれ以外というレイアウトは毎回固定
ちなみに1~2列目の常勤幹事社19社の座席には各社の社名(NHK、産経新聞等)が大きく記載されたA4版の紙が置かれ、記者が着席すると官邸報道室職員がその紙を順次回収する流れになっている。この日、筆者は常勤幹事社の記者がまだ誰も入室していない間に全ての紙を確認しており、上記のように1〜2列目の社名までは再現できた。
官邸報道室職員が持つ座席表はこれよりさらに詳しく、全ての記者席の所属・氏名が明記されていることを筆者は案内を受けた際にこの目で確認している。
ちなみに記者席数の上限は、コロナ禍が始まった2020年にそれまでの100名弱から一気に29席に縮小され、この状況は2023年4月まで約3年間も続いた。29席の内訳は以下のとおりだ。
19席:内閣記者会 常勤幹事社19社から各社1名ずつ
10席:常勤幹事者以外の地方メディア、外国プレス、フリーランス等で抽選の当選者
先ほど紹介した通り、常勤幹事社19社の記者は各席に置かれた社名の紙を通して自らの座席を容易に見つけられるため、官邸報道室職員が席を案内する必要は無い。つまり、官邸報道室の職員は会見開始までに抽選当選組の10名のみを席に案内すればいい。
そして、会見が始まると司会者(四方敬之 内閣広報官)は手元の紙(十中八九、座席表)と会見室の挙手状況を見比べながら順次指名していくので、“実質指名NG記者”の指名は容易に回避できる。
しかも、一般的な記者会見で見られるように「前方の右から3番目の青いシャツの男性」のように座席位置と特徴で指名するのではなく、「日経新聞の秋山さん」といった具合に所属と氏名で指名するため、総理に不都合な質問をする一部のフリーランス・外国プレス等の記者を誤って指名する恐れはない。
そもそも1~2列目は常勤幹事社19社で固めてあるので、次の指名相手を迷うような不測の事態が万が一起きたとしても1~2列目を指名するだけで当たり障りのない質問を受け続けることができる。まさに万全の体制と言える。