首相会見での“違和感”をデータで検証
政治家の記者会見としては、国内で最も大きな注目を集める総理大臣記者会見。ただでさえ参加できるメディアは限定されるため、ここで政府に批判的な論調のメディアも公平に指名されなければ、国民の知る権利の侵害に繋がってしまう。
しかし、約半年前(昨年8月)から同会見に継続的に参加する筆者は、現地で司会者が記者を指名する様子を目の当たりにする中で、明らかな偏りがあることを肌で感じてきた。
例えば、記者の挙手を見ることなく司会者が指名したり(=指名する社を事前に決めていたとしか考えられない)、幹事社による代表質問の後に行われる一般質疑において、明らかに特定の社が指名される頻度が多い、などだ。
ちなみに、内閣記者会のように質問を事前提出していない筆者でも指名されることは稀にあるが、岸田総理は原稿が無いと全く回答できないことも目の当たりにしてきた。
*筆者は昨年10月28日の会見で一度だけ指名を受け、インボイスの導入根拠を質問。岸田総理は正直に「手元に原稿が無いので承知してない」等の理由で一言も回答できなかった。その質疑は下記のYoutube動画で確認できる
本記事では、総理大臣会見の指名の偏りをめぐる違和感をデータで検証していく。具体的には、直近約2年間(菅総理就任以降の2020年9月16日~2022年10月28日の全36回)の会見の指名状況(回数、順序)を各社ごとに整理したうえで、指名の偏りをデータに基づいて指摘する。結論からいえば、その指名は「極めて恣意的に行われている」可能性が高いといえる。
*本検証は非常にボリュームが多く今回はサマリのみを抜粋するため、元データを含む全編(指名順序の法則性、外国プレス・フリーランスの格差の分析も含む)は筆者がtheletter「犬飼淳のニュースレター」で公開した「【独自】首相会見 指名回数と順序の検証から見えた官邸報道室のアメとムチ」 (2022年12月16日) 参照
まず、内閣記者会 常勤幹事社19社の会社別の指名回数(幹事社としての代表質問は除く)を集計したところ、大きな偏りが出た。
*コロナ禍が始まった2020年以降、記者席は29席に限定され、内閣記者会 常勤幹事社19社は各社1名ずつが毎回参加。残り10席は内閣記者会の常勤幹事社以外、外国プレス、フリーランス、ネットメディアで抽選に当たった記者が参加できる仕組み
一部の社(NHK21回、日経新聞19回、読売新聞、産経新聞17回)は多くの指名を受けている一方、東京新聞(4回)、北海道新聞(7回)などは極端に指名が少なく、二極化している。つまり、内閣記者会 常勤幹事社の中にも格差が存在するのだ。
会見の質問内容も併せて確認したところ、政権の意見を代弁するかのような質問が多い社は指名されやすい一方、政権にとって耳の痛い質問が目立つ社は、指名されにくい傾向が見てとれる。官邸報道室はこうした「アメとムチ」を見せつけることで、各社が厳しい質問をしにくい状況をつくり出しているのではないか。