スマホの普及という新たな依存症のパラダイム

そうでなくても、依存症の多い国である日本にさらに依存症を増やしたのが、スマホの普及とマーケティングです。

先ほど、パチンコ店は、家の近くにあるなどアクセスがいい上、毎日、朝から晩までやっているから依存症になりやすいという見解を書きました。もし、この仮説があたっているなら(おそらくは、あたっているでしょう)、もっと怖いものがスマホです。

パソコンでゲームをする場合、家に帰ってやらないといけないのに対して、スマホのゲームであれば、満員電車の中でもできます。もちろん、枕元において、寝る直前まで続けることもできます。

かつて、ネット依存やネットゲーム依存が問題になったときに、職場のパソコンを使って、仕事中までネットゲームがやめられない人たちが問題になりましたが、現在では、職場や学校の教室で、スマホをデスクの上に置いているなどという光景は当たり前に見られるようになっています。

日本で一番多い心の病「依存症」。人口の推計10%がスマホ依存症の日本は「実は依存症大国」だった_6
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以前から、ネットゲームでは、そのゲームにユーザーがはまった場合、先に進むために課金したり、自身のアバターに着せる衣装などを買ったりするので、そこからゲーム会社の利益が発生します。

そのために、各ゲーム会社や運営会社は、優秀なプログラマーを大量に雇って、日夜、「はまる」ゲームの開発に勤しんでいるのです。

一般の子どもたち、それどころか、大人まではまってしまってスマホを手放せないのは、当然のなりゆきと言えるでしょう。

前にも触れたように、2013年の『「依存症」社会』執筆の際に調べた段階で、270万人もネット依存がいたと推計されていましたが、今は前述のように人口の1〜2割がスマホ依存症状態になっていると考えられます。

さらに問題なのは、パソコンの場合、一日向かっていれば、自分も周囲も依存症を自覚できるでしょうが、スマホの場合、一日中使っていても、本人も周囲もおかしいと思わないことが少なくないことです。

さらに事情を複雑にしているのは、スマホの場合、ゲームだけでなく、LINEなどの「つながり依存」のような状態が存在することです。

NTTドコモのモバイル社会研究所の「2022年一般向けモバイル動向調査」によると、スマホ・ケータイ所有者の10代の94%、20代の91・4%がLINEを利用していて、全体では8割以上が利用しているというのです。

LINEの返事をチェックするために、ゲームをやらない人でも当たり前に、四六時中、スマホを見たり、操作したりする(授業中や仕事中も)。そうしないと不安だとすると、すでに依存症になっていると言えるのですが、それを周囲も本人も依存症と自覚しないのが、LINE依存の怖いところと言えます。

このLINEの利用率も、日本が突出して高いことも触れておきたいと思います。

このLINE依存状態は、「つながり依存」とも言えるもので、疎外感の精神病理に深く関係するものなので、あとで少し考えてみたいと思います。

いずれにせよ、スマホの普及はそうでなくても依存症の多い日本で、とどめをさすように依存症を蔓延させました。まさに依存症社会に突入してしまったわけです。


文/和田秀樹 写真/shutterstock

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『疎外感の精神病理』 (集英社新書) 
和田秀樹 (著)
日本で一番多い心の病「依存症」。人口の推計10%がスマホ依存症の日本は「実は依存症大国」だった_7
2023年9月15日発売
1,100円(税込)
新書判/208ページ
ISBN:978-4-08-721282-2
現代日本人の心理を読み解くキーワード

世界を襲ったコロナ禍により、さまざまな形で私たちの心のありようは変わったと言える。
他人と接触することがはばかられた時間を経て、他人との交流が増えたいま、人とうまくつながれず表面的な関わりしか持てなくなってしまった人や「みんなと同じ」からはずれる恐怖を感じる人は実に多い。
これは若い人だけの問題ではなく中高年でも多く見られる現象でもある。
本書では日本人を蝕む「疎外感」という病理を心理学的、精神医学的に考察。
どう対応すれば心の健康につながるのかを提案する。

【主な内容】
・「みんなと同じ」現象の蔓延
・コロナ禍に続くウクライナ情勢を疎外感から読み解く
・あぶり出された人と会うのがストレスの人
・8050の嘘
・高齢者の「かくあるべし思考」と福祉拒否・介護拒否
・ホワイトカラーの老後と疎外感
・スマホの普及という新たな依存症のパラダイム
・コミュ力という呪縛
・共感という圧力
・疎外感とカルト型宗教
・周囲が心の世界の主役のシゾフレ人間
・対極的なシゾフレ人間とメランコ人間
・人と接していなくてもいいという開き直り
・ひとりを楽しむ能力を与える 
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