おじいちゃんを物みたいに扱わないで
こころの祖父は、こころが小学校高学年のころに脳梗塞になった。祖父は、こころが幼いころからよく面倒を見てくれた。幼稚園まで迎えに来てくれて、帰り道は公園に寄っていろんなことを教えてくれた。虫のこと、鳥のこと、花のこと、雲の形や名前まで、なんでも知っている博士みたいな祖父だった。
ところが、ある日倒れてから寝たきりになり、話もうまくできなくなった。病院では看護師たちに荷物のように運ばれ、動かされ、それを見ていると、幼いこころはとても悔しかった。
「おじいちゃんを物みたいに扱わないで。自分たちの話をしながらお世話をしないで。おじいちゃんはすごい人なのに、この人たちは何も知らないくせに」
そんな風に叫びたい気持ちだったが、何も言うことはできなかった。
ただ、1人の看護師だけは違った。その看護師は、祖父を「先生」と呼んだ。祖父が持っている鳥の図鑑を一緒に見て祖父に質問したり、窓の外の桜の木にとまる鳥の名前を聞いたりしていた。祖父はうまく喋れなかったが、オスとメスの見分け方や特徴を一生懸命伝えていた。そのときはいつも誇らしげで病気する前の祖父に戻ったようだった。
そんな看護師と祖父のやりとりを見て、こころは自分も看護師になりたいと思うようになった。患者を人間として敬って接する、素敵な看護師さんになるんだと。こころは、1か月ほど前から休職し実家に帰った。部屋には家を出るときに残していった勉強机も、ずっと使っていたベッドも、そのまま置いてあった。
10時をまわり、太陽が高く昇っても、まだ体は眠っているようで動かなかった。前の晩も遅くまでマンガを読んでいたからかなと思った。ベッドに横たわって天井を見つめながら、祖父を先生と呼んでくれた看護師のことを思い出した。