中高年以降にも広がり続ける「引きこもり」

患者さんだけでなく、世の中全般の人たちを精神科医の立場から見ると、この手の、素直に人に頼ることができないで何らかの形で苦しんでいる人はとても多いように思えます。

人とうまくつながれない。安心してつながっている感覚が持てない。そんな疎外感を覚えている人が多い気がするということです。

実は、この疎外感こそが日本人の心の問題の中心テーマなのではないかと私は考えるようになりました。引きこもりが社会問題になってから30年以上経ち、8050問題という言葉が話題になりました。

子どもの頃に引きこもりになった人が50代まで引きこもりを続け、親が80代になり面倒が見られなくなってしまうという悲惨な状況ですが、人間というのは一度引きこもってしまうと、より人と接することが怖くなり、また疎外感を膨らませていくので、引きこもり状態がズルズルと長くなってしまうのです。

実は、内閣府が2018年に40〜64歳の人を対象に行った実態調査によれば、初めて引きこもり状態になった年齢が19歳までの人はわずか2・1%にすぎず、4割近くの人は50歳を過ぎてから引きこもりになったとされています。

「引きこもり状態になったきっかけ」の1位が退職でした。

会社を辞めてしまうと人間関係が持てず、そのまま引きこもりになってしまうということですが、退職をきっかけに強い疎外感を持ち、もう人間関係には入れてもらえないという絶望が生じてしまう人が少なくないというのは、精神科医の目から見ても確かなことです。

引きこもりになった理由1位は「退職」…増える中高年の引きこもり「もう人間関係にいれてもらえない絶望」に耐え切れず_2

2021年12月に起きた大阪の心療内科クリニックの放火事件も、私自身がカウンセリングのクリニックも経営しているので、ショッキングな事件でしたが、自らも火の中に飛び込み死亡した被疑者は40代の後半に離婚、退職などが続き、その後は引きこもり同然の生活を送っていたとのことです。

人を巻き添えにして死のうという考え方は特殊なものであっても、このような形で疎外感をつのらせている人が少なくないのは確かなことでしょう。

私も高齢者対象の精神科医を本業としているのですが、引きこもりは若い人の問題というより中高年以降の重大な問題だと考えるようになりました。

さらに言うと、若い頃の引きこもりと違って、声をかけてくれる家族がいなくなってしまうという深刻な問題もあります。

それを福祉とつないで、人とのつながりを復活させていくというのも精神科医の重要な仕事となってきたのですが、そういうスタッフになかなか心を開いてくれず、疎外感が収まらない人がいるのは、悩みの種なのです。