マクロ経済スライドだけでは年金財政はバランスしない
将来における年金財政をバランスさせるために導入されているのが、「マクロ経済スライド」だ。
これは、2004年に導入されたもので、一人当たり給付を毎年r%カットする。すると、20年後には、一人当たり給付は、(1-r/100)^20倍になる。
rは約0.9%と設定されているので、この値は、0.83になる。つまり、一人当たり給付を20年間で約2割カットすることが予定されているのだ。
すると、2040年の給付総額は、前述のように1.1Bではなく、1.1×0.83B=0.91Bとなる。
他方、2040年の保険料収入は、前述のように0.8Cだ。したがって、(BとCはほぼ等しいので)依然として給付総額が保険料総額を上回ることになる。
実質賃金が上昇すると、年金財政は大きく好転
以上ではゼロ成長経済を想定した。ここでその想定を変更し、物価上昇率はゼロだが、実質賃金が対前年比で毎年w%だけ上昇すると考えよう。
すると、その年の保険料総額は、ゼロ成長の場合に比べて、w%だけ増える。
他方で、その年の新規裁定者の年金も同率だけ増える。ただし、既裁定者(すでに年金を受給している人)の年金額は影響を受けない。
保険料の増加は、15〜64 歳の人口すべてについて生じることであるから、新規裁定の約50倍の効果があることになる。
つまり、実質賃金が上がることの効果としては、保険料収入が増加することのほうが圧倒的に大きい。そこで、以下では、新規裁定者の年金増加は無視し、保険料総額増加だけを考えることにする。
実質賃金が毎年w%上がると、20年後には賃金は、(1+w/100)^20 倍になる。
w=1%の場合、20年後に現在の1.22倍になる。したがって、20年後の保険料総額は、2020年の0.8×1.22=0.976倍になる。給付は前述のように0.91Bなので、収支は改善する。
2019年財政検証では、不自然に高い実質賃金伸び率を仮定している。ケース1では年率1.6%だ。ケース2からケース4でも、年率1%台を想定している。
年金財政が均衡するという結論になる最大の要因は、このように高い実質賃金上昇率を仮定していることなのだ。