今は「忖度」ばかりの幕末と同じ
藻谷 いつから日本はそうなったか。そういう面は日本には昔からあって、表に出たり見えなくなったりしているのです。最近では、幕末が今と似たような感じだったのではないでしょうか。逆にいえば、今の日本って、本当に幕末みたいです。
幕末の武士って、「何々候(そうろう)べく候(そうろう)」って、候に候を重ねた文章ばかり書いているんです。「何々してください」というべきところを「何々していただけたら、と思いますが、いかがでしょうか」とむやみに長ったらしく話す、最近のトレンドと似てますよね。全員が全員に忖度して、しまいには何に忖度しているか分からなくなってしまった。
そこにペリーが来て、15年で維新になるわけだけど、維新も本当に動いたのは最後の1、2年。それまでの10数年は、やたら無駄に「志士」と呼ばれた人たちが死んだだけでした。日本は、やらなきゃいけないことが分かっているのにやらなかった。欧米に対峙するには、身分制度も幕藩体制もやめなきゃいけなかったのですが、それは幕府には無理だったんです。270年続いた「神君・家康公の体制」を、無理と分かりつつどう継続させるか、そのために外国から突き付けられる難題をどうごまかして当座をしのぐか、幕府にはそれしか考えられませんでした。
幕末の身分制度を、今の時代でいえば、学歴と親ガチャと下請けいじめ、非正規差別、そして男女差別ですよ。こんなのを21世紀に続けていて、日本が無事に済むと思っている方が、間違っている。
泉 頭でっかちのままでまだ日本は転換できてないです。プチ自慢になって申し訳ないけど、私が市長を12年で卒業した後、今の明石市長は、女性市長です。副市長も女性です。実は明石市の女性副市長って、兵庫県初なんです。市長は選挙だから女性が通ることもある。でも、副市長は女性が選ばれてこなかった。つまり公務員は男社会だから、女性が副市長にならない。さらに言えば、選挙は市民派が勝つことは多かったんですが、問題は勝った後。市民派だった市長がすぐに多数派の役所と手打ちするんです。そこの辛抱ができない。役所というのは官僚と言ってもいいんだけど。
藻谷 副市長側と手打ちしちゃう。神輿に担がれて収まってしまうんですね。
泉 そうです。副市長は基本的に市民の代表ではなく、市民の代表は市長だけなのにそうなってしまう。それで忖度が始まり、元の木阿弥です。
藻谷 今の女性は、言うなら幕末の農民です。幕末の武士は、農民にに政治や経営ができるわけがないとバカにしていた。渋沢栄一のように武士に取り立てられる人はたまにいたけれど、半分から上には行けない。ですが論より証拠で、明治になってみれば、大名や家老からは政治家も経営者も出なかった。明治も30年代となれば、政財官軍、みんな農民出身者がトップですよ。未だに女性を馬鹿にしている、令和の高齢男性リーダーも同じです。
21世紀の日本でも、もうペリーは大分前に来ている気がするんですが、いつ大きな転換が起きるのか……。そろそろ本当に臨界点に来ている気がします。
泉 日本の少子化は静かなるペリー来航と一緒ですよ。私は物すごく前向きな人間なので、もう間もなくストンと変わると思う。