擦り切れるくらい読んだ「星の王子さま」をコース料理で

ナミザイモクザは「何々料理の店」と定義することはできない。料理人のさわのめぐみさんの世界観を、料理を通して体験する空間であり、そこにいる時間が「ナミザイモクザ」である。彼女のアトリエでその時間が提供されるのは、月にたいてい三日もしくは四日。詳細はInstagramで発信され、応募者の中から抽選で当選者が決まる。目の前がオープンキッチンのカウンター席はわずか4席。なかなかの狭き門なのだ。

めぐみさんの存在を知らしめることになったのは季節の果物を使った美しいパフェだそうだが、それは後で触れるとして、彼女の真骨頂は、年に数回しか開催されない「ものがたり食堂」にあると思う。彼女の言葉を借りれば、誰もが知っている童話や小説、映画などを『食べる読書感想文』として、コース料理に変換したフードインスタレーションである。

先日、私が体験したのは「星の王子さま」。言わずと知れた、サン=テグジュペリが1943年に発表した小説だ。物語を読んだことがなくても、地球に立つ王子さまを描いた表紙を目にしたことがある人が多いはず。子供の頃、読書がいちばんの楽しみだった私は、本が擦り切れるぐらいに読んだ記憶がある。

今回のフードインスタレーションのテーマとなった作品は「星の王子さま」
今回のフードインスタレーションのテーマとなった作品は「星の王子さま」
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主人公は操縦士の「ぼく」。サハラ砂漠に不時着し、小惑星からやってきた「王子」と出会う。王子は他の小惑星を旅し、先々で風変わりな人たちに会う。王子は最後には地球に戻ってくるのだが、王子とぼくには別れが来る…といったこの物語をどうやって料理に落とし込むのか、席に着くまでまったく予想がつかなかった。

テーブルには「星の王子さま」の文章を抜粋した小冊子が置かれていた。パラパラめくるだけでなつかしい気分になる。これに夢中になっている頃、私は大人になったら「おはなし作り家」になるなんていっていたなあ。夢が叶ったとはいえるけれど、あの頃のようにわくわくと物語と接していられているかは自信がない。そんなことを考えながら一皿目を待った。

王子さまが愛した薔薇
王子さまが愛した薔薇

王子の旅は、薔薇とけんかしてしまったことでスタートする。最初に供された皿はガラスの蓋で覆われており、中には真っ赤な薔薇があった。この薔薇は食用花、薔薇の下にはルバーブと山羊のチーズ。薔薇をかじりながら、チーズを味わう。二皿目も薔薇にまつわるもの。桃の白和えにハイビスカスとローズヒップの泡がかけられ、ローズビネガーが垂らされている。