ブラキシズムは歯周病を進行させ、食事もできなくなってしまう…

お口には、歯ぎしりをしたり、噛みしめたりするたびに大きな力がかかっています。その力は、通常の咬合力の3〜5倍あると、これまではいわれていましたが、近年では6〜7倍もあるという報告もあります。この強い力によって、歯は押しつぶされ、こすられ、曲げられていきます。その結果、虫歯でもないきれいな歯が、割れたり欠けたりしてきます。

またその力は、歯を支えている歯ぐき(歯肉やあごの骨)にも影響を及ぼします。歯の根のまわりの組織がブラキシズムの力で押しつけられると、血流が悪くなり、免疫細胞などが十分供給されなくなって、歯周病が進行していきます。

さらに歯そのものが動いて、噛み合わせが変わってきたり、噛むと痛みが出たりして、食事がしにくくなってきます。

このように、誰にでもある小さな癖が、長い間に、お口や歯の機能に重大な影響を及ぼすことがあるのです。

実際にお口の中を時間と共に経過観察すると、確実に、ブラキシズムの影響と思われる変化が現れてきます。

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歯への影響

歯ぎしりがあると、まず、歯がすり減って削れてきたり(咬耗)、歯の頭が欠けてきたり、治療したあとの詰めものやかぶせもの、充填物が外れたり、歯の一部と共に欠けて一緒に取れてきます。

最悪の場合、かぶせものや差し歯(歯根に支柱を立てて人工歯をかぶせる治療)ごと、歯根が割れることもあります。

過去には、虫歯でもなく、歯科治療を受けた痕跡もない歯が、突然歯冠から歯根まで竹を割ったように縦に二つに割れてきた患者さんもいました。こういうときは、たいていの場合、歯は抜かれる運命にあります。

また、「クサビ(楔)状欠損」といって、歯の付け根がえぐれることもあります。これについては間違いなく、ブラキシズム、つまり歯にかかる「力」の問題だということが、科学的に証明されています。クサビ状欠損は特定の歯だけに現れる人もいれば、犬歯から奥歯まで、程度の差はあるものの、全部の歯に現れる人もいます。

また、歯の表面がなくなっていったり、奥歯などの歯の咬合面がすり減って、象牙質が露出してきます。象牙質はエナメル質よりも柔らかいので、削られてくぼみが進行していくこともあります。

大切な歯を失ってしまうかもしれない“ブラキシズム”とは? 「原因不明の偏頭痛」「犬歯の尖りがなくなった」「歯の付け根にくぼみ」の兆候には要注意_3
歯が割れた患者さんの例。『ブラキシズムが歯を壊す! 隠れた「歯の天敵」を知っていますか?』より

噛みしめや食いしばりは、目で見てわかるような変化はあまりなく、普通はなかなか歯を見ても影響は現れません(特殊な光を当てて見ることで表面のヒビ割れなどを顕微鏡などで観察することはできます)。しかし、強い力が何万回、何十万回かかると、歯が破折します。

当院の男性の患者さんで、虫歯が一本もないのに、なんと、歯が真っ二つに縦に割れてしまった方がいました。真っ二つに割れなくても、ヒビが入ってしみたり、ヒビが根っこまでつながって、やがて歯を失う人もいます。

このようにブラキシズムがあると、虫歯でも歯周病でもないのに、歯を失うことになるのです。