自衛隊に欠けている「戦傷医学」の戦術

特に自衛隊がTCCC(米陸軍旅団戦闘傷病者救護後送指針)について認識を誤っていることが致命的だ。

TCCC(ティートリプルシー)とはTactical Combat Casualty Careの頭文字を取ったもので、日本では「戦術的戦傷救護」や「戦術的第一線救護」と言われるが、どちらも誤認である。

1996年に米軍が始めた第一線の救命の取り組みで、「戦闘による死者の90%は、治療施設に到着する前の戦場で亡くなっている」こと、さらに「大動脈の損傷によって起こる大量出血は、通常は非常に性急で、おびただしいため、負傷者は助けが来る前に亡くなってしまう」ことを踏まえ、大量出血を負傷から短時間のうちに防ぐことで、死者を大幅に減らすことができることから始まり、世界的なスタンダードになりつつある。

自衛隊の戦場医療認識に欠けている第一線での救命の取り組み。正しい処置ができていれば防ぎ得た死をできるだけ減らそうという世界的潮流に遅れをとるワケ_2
写真はイメージです

現代の戦闘外傷では同時に手足を2本、3本失うもので、1人の治療には交通事故による外傷治療の2倍、3倍もの医療従事者が必要となることがあるからだ。しかも戦傷病者は同時多発する一方で、現地のインフラは破壊されるなど機能不足に陥っている。

そこで、軍隊では作戦地域では戦闘傷病者の決定的治療は行わず、生命または機能維持のための処置だけを行い、治療能力を有する後方地域へと引き継ぐSOP(Standard Operating Procedure=作戦実施規定)が定められる。

NATO軍も採用している米軍のTCCCは国際標準となった。

Tactical:軍事用語では作戦基本単位、機能集合体による戦闘及びその部隊、2023年現在の米陸軍では「旅団」を意味する

Combat(戦闘):軍事用語ではTacticalは「作戦単位」を指すため「戦闘」を表現するためには「Combat」を用いる。例としてCAT(Combat Application Tourniquet=戦闘時に適用する救命止血帯)がよく知られる。

Casualty(傷病者):医師の診察を受ける前の人を意味する。診察を受け、医師の治療の管理下にある人は「患者(Patient)」だ。

Care(処置):医師以外が行う救護や治療に繋げるために施されるものである。医師が行うものは「Treatment(治療)」である。