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自衛隊医療従事者の悲惨な充足率

自衛隊の医療従事者は「いざ」という時の隊員の救命に関わる重要職だが、現在、深刻な状況にある。

図1-6「自衛隊の医師、看護師、薬剤師の充足率と臨床経験」にあるように、自衛隊の医師数は2020年11月の報道時には約1000人と防衛医大の卒業者数から算出した編制定員の推測数2300人の半分にも満たない。

防衛省では医師数は医科医師と歯科医師の合計数で発表することが多いため、歯科医師数約200人を引いた800人が現状であろう。

2009年3月末の発表では自衛隊の医師数は陸上自衛隊779人、海上自衛隊225人、航空自衛隊172人の合計1176人であるから、医師数減少の速さと深刻さがわかる。

自衛隊医療従事者に辞めてしまう人が続出なのはなぜ? 編制定数・推定3000人必要なところに実際は1000人、任官辞退時に最高額約4800万円の返還義務が生じるのに…_1
図1-6 自衛隊の医師、看護師、薬剤師の充足率と臨床経験。『「自衛隊医療」現場の真実 - 今のままでは「助けられる命」を救えない -』より
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防衛医科大学校に入学すれば入学金及び授業料等を支払う必要はなく、医学生、看護学生として学習でき、医科医師、正看護師の国家資格受験資格が得られる。

医学生と自衛官になる看護学生の学生の身分は防衛省職員(特別職国家公務員)であり被服、食事等は、すべて貸与又は支給される。

在校中は、毎月所定の学生手当(給料月額12万200円、2023年1月1日現在)が支給されることに加え、年2回の期末手当(6月と12月のボーナス合計約30万円以上)が支給される。

学生自身の医療費は、防衛省の病院等で受診した場合はすべて国が負担してくれる。学生は、防衛省共済組合の組合員となり、その給付が受けられるほか、各種の福祉制度も利用できる。

しかしながら、税金で学習するには相応の義務もある。

卒業して幹部に任官するまでは指定場所に居住する義務があるため、隊舎で寮生活をしなければならず、外出には許可が必要になる。一般の医科大学に相当する夏休み、冬休みもあるが、それらは休暇扱いだ。

また、奨学金の比ではないほど厳しいのが教育費の一部を国庫に償還する義務だ。

卒業後に医官となって9年間、看護官となってからは6年間、自衛隊に勤務する義務があるが、任官を辞退した場合や勤務義務期限以前に退職した場合は、翌月末までに医官では最高額約4800万円、看護官では800万円以上を支払う義務がある。

支払い方法は、一括償還か2年間かけての半年賦償還を選択できる。分割で支払う場合の年利は看護官で14・5%と高いものだ。半年賦償還を希望する場合には、離職の日(卒業の日の属する年の7月31日以前の離職のときは、8月9日)までに、その理由について詳細に記した「償還金償還計画書」を作成し、順序を経て陸上幕僚長に提出しなければならない。