なぜ日本では人道支援=「意識高い」「変わった人がやること」なのか

加藤 僕が「国境なき医師団日本」の会長を務めているとき、アフガニスタンの北部にあるMSFの病院が攻撃されて、患者さんやスタッフらが亡くなりました。国際人道法が守られないため、今はウクライナの戦闘地域に医療援助が入れなくなっています。

いとう これは大問題ですよね。

加藤 はい。国際人道法が守られていないことが問題にならないことが大問題です。

いとう 大問題なので、小さいながらここでこうして声を挙げているわけですが、日本では人道支援というと、もの好きな人とか、変わった人がやるという感覚がまだあるんですよね。

「国境なき医師団のスタッフの半分が非医療従事者と知って『俺は何もしないのか』と突きつけられたんです」いとうせいこうが加藤寛幸と語った“人道支援のリアル”_3
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──それと関連する声が会場からもあがっています。MSFに寄附をするとか、人道支援という言葉を使うと、「意識高いんだね」と友達に距離を取られると。お二人はどう考えますか?

いとう それはもう、「高いですが何か」って言っていいんじゃないかな。僕なら友達に、「意識低いね」って言っちゃいますけど。

加藤 「意識高い」レベルが普通のレベルにならなければいけないと思います。今、いとうさんがおっしゃったように、日本は西欧に比べて、人道援助に対する関心が低いです。これはジャーナリズムにも言えると思います。

 といっても人道支援って特別なことではなくて、困っている人がいたら心が痛むし、手を差し伸べたくなるといった、誰もが持っている感情から始まるものです。誰でもできることであって、意識が高いとか低いとかは関係ない。MSFのことも特別視しないで、もっと知ってもらえたらと思います。そのためにはアニメとかドラマとか……、身近なところに入っていくのも大事かなと思っています。

いとう それは僕もよく考えます。こういう本を僕だけじゃなく、アイドルとか、影響力のある人気者が書いてくれたらなとか。そういう世の中であるほうがカッコいいでしょうって思いますね。加藤さんも、また本を書いてくださいね。

加藤 ありがとうございます。でもこの本、7年かかりましたから……(笑)。いとうさんは、またMSFの現場に行かないんですか?

いとう コロナで控えていましたけど、そろそろ行きたいと思っています。僕はやっぱり見たいんですよ。世界で何が起きているかをこの目で見て、伝えたい。

加藤 いつか僕が支援活動に行った先で、いとうさんにお会いできたらいいなと思っています。


構成/砂田明子 撮影/須古恵

『生命の旅、シエラレオネ』
加藤 寛幸
「国境なき医師団のスタッフの半分が非医療従事者と知って『俺は何もしないのか』と突きつけられたんです」いとうせいこうが加藤寛幸と語った“人道支援のリアル”_4
2023年2月24日
1,980円(税込)
四六判/292ページ
ISBN:978-4-8342-5371-9
ひとつでも多くの生命を救いたい。
国境なき医師団の小児科医のエボラとの壮絶な戦いや葛藤、かわいい患者のこどもたちの姿を通し、生命とは何か、利他とは何かを問う感動のノンフィクション。
凄惨なエボラの現場で、生きる意味を見失っていた医師は再生へと導かれていった——。

2014年、西アフリカのシエラレオネ。人類と、致死率60%とも90%とも言われるエボラとの戦いは想像を絶していた。人員も設備も不足した現場では、誰に看取られることもなく、多くの命が失われていく。
著者はこの数カ月前、南スーダンで活動していた。溢れかえるマラリア患者、病室の床まで埋め尽くす新生児破傷風患者などが、バタバタと命を落としていく。その現状に圧倒され、無力感と敗北感に囚われ帰国。帰国後は、PTSDに苦しみ、生きる意味を見失い、仕事や家族など多くの大切にしてきたものをも手放した。
そんななかで参加したエボラの活動。
40度近い気温のなか、防護服と二重の手袋、ゴーグルを着けて何リットルもの汗をかきながら治療にあたったが、できることは限られている。ここでも医師としての無力感に苛まれ、国際社会への疑念も生じた。だが家族をなくしながらも必死にエボラに立ち向かい、他のこどもの看病をするこどもたちとの関わりを通して、著者の生きることへの疑問は次第に薄れていく。
しかし、そんな著者を待ち受けていたのは意外な結末だった。

世界が新型コロナや戦争に揺れるなか、私たちは、自国や自分の利益を離れて行動することができるのだろうか。危機的な状況に置かれた今だからこそ、伝えたい。

第20回開高健ノンフィクション賞最終候補作。

さだまさしさん絶賛!
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『「国境なき医師団」をもっと見に行く ガザ、西岸地区、アンマン、南スーダン、日本』
いとうせいこう
「国境なき医師団のスタッフの半分が非医療従事者と知って『俺は何もしないのか』と突きつけられたんです」いとうせいこうが加藤寛幸と語った“人道支援のリアル”_5
2023年06月15日
913円(税込)
416ページ
ISBN:978-4-06-532079-2
世界の矛盾が凝縮された場所――パレスチナ。そこで作家は何を見て、何を感じたのか?
同時代の「世界のリアル」を伝える傑作ルポルタージュ!

抗議デモで銃撃されるガザの若者たち、巨大な分離壁で囲まれたヨルダン川西岸地区、中東全域から紛争被害者が集まるアンマンの再建外科病院ーー。
「国境なき医師団」に同行して現地を訪ねた作家が、そこに生きる人たちの困難と希望を伝える好評シリーズ最新刊。

文庫版では、新たに「南スーダン編」「日本編」を追加。

「見つめるほうも、見つめられるほうも、その瞬間を生きている。戸惑いの中から漏れる言葉に吸い寄せられた。」
――武田砂鉄さん(ライター)

「いとうさんだからかけた、ニュースでは見えない人間のドラマ。最前線のリアルが立体的に伝わる一冊です。」
――白川優子さん(「国境なき医師団」看護師)

本書は単行本『ガザ、西岸地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く』を文庫化にあたり改題したものです。
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