消火も撮影も命懸けの一本勝負
山本耕史(以降、山本) いいなぁ。僕はひとり東京から来る編集者の役ですが、舞台での共演も多いメンバーが多いので、いつでも安心して入れています。
池井戸 山本さんの役名の中山田洋は、僕の担当編集者たちの名前を合体させてつけたんです。中山くん、田中くん、森田さん、洋さんという。
岡部 えっ、(歌手の)内山田洋が由来じゃないんですか?
梶原 てっきりクール・ファイブ推しなのかと思ってました。
池井戸 残念ながら違います(笑)。
橋本 まあ我々、今日はこういう衛生的なところにいますが、それまではずっと土と埃と虫の国の住人でして。
生瀬勝久(以降、生瀬) そうそう。真夏になる前とはいえ、けっこうな日差しの中で……あ、消防団部長、山原賢作(やまはらけんさく)役の生瀬です。ロケ先、景色がとにかくきれいで、よかったよね。すごくお金がかかってる感じがする!
中村 でも、泊まりじゃない。そんな予算、テレビドラマにはありません(笑)。
梶原 桜屋敷の太郎の書斎からの眺め、最高じゃない? 賢作さんちのセットもいいよね。バーベキューやりたくなる、いい感じの庭があってさ。
生瀬 そうそう。バーベキューどころか、火事で燃えちゃうんだけどね(笑)。ロケの最初が第1話の消火活動のシーンだったんですが、あれ、ワンカットの長回しで撮ったんですよ。
山本 へぇー。何分くらいですか?
満島 4分くらいですかね。消防車からホースを下ろすところから始まって、地元の井戸の水を通して、放水まで全部一連でやってます。
梶原 なにしろ水圧がすごくて。事前に消防署で練習させてもらったとき、これは絶対手を離しちゃいけないなと。
橋本 水が入って、ホースの膨らみがだんだん近づいてくると「次は俺の番だ!」って。恐ろしかったよねぇ。
山本 うわー、現場、見たかった。
満島 一度ホースに水が通ってしまうともう使えなくなるから、やり直しになると大変。めちゃくちゃ緊張しました。
中村 消防員には1番員から4番員までいるんですが、2番手でいちばんよく走る岡部さんが大変でしたよね。だんだんシャー芯(シャープペンシルの芯)みたいに細くなっていくから、心配で心配で。
岡部 いやー、あんなに重いものを持ってダッシュしたのは人生初かもしれないです。でも、すごく頑張ったのに、スタッフに「キャラで面白く走ってるんですか?」「笑えました」とか言われるし。
一同 ひどい!(笑)
橋本 鳶口(とびぐち)(嘴(くちばし)形の金具をつけた道具)で扉を割って火災現場に入る場面も、緊張しました。煙がすごくて。
生瀬 だったよね! 撮影では体に害のない煙を使っているんですが、まさに一寸先も見えなくて、本当に怖かった。消防団員の方たちはいつもこんな中でやっているのかと思うと、頭が下がりました。
岡部 消防団の存在は知ってはいたんですが、団員の方にお会いして、実際の活動内容を伺ったのははじめてでした。
中村 あ、僕もです。
梶原 法被着て「火の用心!」って歩いて回るイメージだったから、まさか消防車に乗るとは思ってなかったなぁ。
池井戸 僕の地元に残った友人たちは、皆、団員になっています。近くに消防署がなく、最寄りからでも来るのに40分くらいかかるから、いざ火事が発生したら、まずは消防団が消すしかないんですよ。
橋本 しかも、ほぼボランティアで。郷土愛がないと、とてもできないですよね。
一同 (頷く)
生瀬 とにかく、東京で練習を積んでロケに行って、あの火事のワンカットに皆で集中して挑んだことで、「わっ、ハヤブサ消防団が生まれた!」という手応えを感じました。2回で撮り終わって拍手して、ああ、このドラマはここから始まって、きっと成功するんだろうなと。
田園生活のリアルを満喫
池井戸 そうでしたか。映像だけ見て「運動会みたいだな」とか思っていて、すみませんでした(笑)。これまでいろんな小説を書いてきたんですが、故郷を舞台にした『ハヤブサ消防団』は、僕にとってどうしても書いておかなくてはならない小説だったんです。
一同 へえーっ。
池井戸 田舎の風景や生活は、実際に住んだことのある人間でないとリアルに書けないし、僕が父親から聞いた出来事や伝承についても記録しておきたかったし……。第1話にある、滝で死体が上がったときの様子も、ずいぶん前のことですが本当にあったんですよ。沈んでどこかに引っかかっていた死体が、ガスが溜まって水面に飛び出してきたという。
中村 僕がボートから落ちたやつだ。遺体となった浩喜(ひろき)役の一ノ瀬ワタルくんが、浮かんだ後、「ああ、生きてる」って言ってました。
橋本 長すぎたよね、死んでるの(笑)。
満島 リアル・ハヤブサかぁ……。リアルといえば、方言が難しいですね、岐阜弁。
池井戸 岐阜の言葉は、書き言葉にすると普通ですが、イントネーションが複雑なんです。地域によっても違いますし。
生瀬 我々、関西出身者は多いんですけど、それともぜんぜん違いますよね。
梶原 居酒屋で出てくる料理は、岐阜の名物なんですか?「ケイチャン」とか。
山本 どんな味?
中村 鶏を、たぶん醤油とお酒と……。
梶原 味噌も入ってるんじゃない?
中村 うん、味噌と、あと、みりんか砂糖で炒めたみたいな。おいしかったです。
池井戸 あれも、ケイチャン(「シャンシャン」と同じ抑揚)じゃなくて、正しくはケイチャン(「冷淡」と同)……。
中村 やばい。福田転球さん(居酒屋店主役)、修正アフレコしないと。
池井戸 いやいや、大丈夫です。ほかも微妙に違ってましたから(笑)。
一同 えーっ!
満島 アユの塩焼きもおいしかったです。あと、アユの小さいやつを煮た……ほら、太郎の家に持って行ったじゃない?
中村 そうだったっけ。あそこ台詞が多かったから、ぜんぜん覚えてない。
満島 太郎〜! 中村さんだけ標準語だから、僕、会話してると、ついつい引っ張られそうになるんですよ。
中村 そして、ただでさえ方言でいっぱいいっぱいの真之介は、動きを足されるとガチャガチャになり……。
一同 ハハハ!
山本 僕は太郎と遊ぶシーンが多くて、ゴルフとか釣りとか、いろいろやりました。僕自身はゴルフはやらないんですが、気持ちよかったですね。
中村 やればドライバーで300ヤードは飛ばせそうなのに。
山本 消防の場面もやってみたかったですけど、皆さんの苦労話を聞くとね……。これでも案外、肉離れとかしやすいほうなので(笑)。ちなみに今作では、裸にはなっていないですね。
梶原 フフフ。大河ドラマ(’22年放送『鎌倉殿の13人』など)ではしょっちゅう脱いでたもんね。