教育とマインドコントロールは紙一重
トモヤは高圧的な親から逃げることを選択しました。
しかし、逃げることができない人たちもいます。極度に高圧的な親のもとでは、心理的に拘束され、親の言う通りにしか動けなくなってしまうのです。
たとえば、外出や買い物などあらゆることに親の許可を必要とし、行動を制限する。親の言うことは絶対で、口答えをさせない。支配下から逃れようとすると何かしらの罰を与える。
このように支配されると、子どもは常に親の顔色をうかがうようになります。自分から積極的に行動することができず、やりたいことがあっても、まず「親はどう思うだろう」と考えます。次第に、自発的に考えることをやめてしまい、何でも支配者の言う通りに動くようになってしまいます。もはや「逃げたい」とも考えません。
これはまさに「マインドコントロール」です。
マインドコントロールという手法は、近年の旧統一教会関連のニュースでも聞かれますが、日本では最初、オウム真理教事件で有名になりました。天才、秀才と言われるような若者が多く入信し、「地下鉄サリン事件」ほか次々と凶悪な事件を起こした背景には、マインドコントロールがありました。
支配下に置かれた者は、何でも支配者の言う通りに行動する
普通の感覚からすると「なぜ、そんなに頭のいい人が異常な行動をとるのか?」「おかしいと思わないのか?」と理解に苦しみますが、支配下に置かれた者は、何でも支配者の言う通りに行動するようになってしまうのです。
当時私は東京拘置所に勤務していたため、多くのオウム真理教関係者を心理分析しました。「これをしなければ、こんなに悪いことが起こる」「ここから抜け出せば、こんなに酷いことが起こる」と、長い期間にわたって繰り返し刷り込まれてきており、支配から抜け出すことがいかに難しいかを実感したものです。
2016年、千葉大学の学生が、中学生の女子生徒をアパートに2年間も監禁していたという事件がありました(朝霞少女監禁事件)。
この事件がメディアで報じられたとき、「なぜ2年間も逃げられなかったのか?」ということが話題になりました。アパートは厳重に鍵をかけて出られないようにしているわけではなく、目の前には千葉大学があり、助けを求めることができそうな環境だったからです。女子生徒がひとりで買い物に出かけることもありました。
「女子生徒はなぜ逃げなかったのでしょうか?」
当時、メディアに呼ばれて何度も聞かれました。
まるで逃げ出さなかった被害者が悪いとでも言うような論調は、困ったものだと思います。
女子生徒は心理的に拘束されており、逃げられなかったのです。これは少しもおかしいことではありません。
ちなみに、監禁していた大学生は「一番すごいと思うのは麻原彰晃」と語っており、マインドコントロールについて勉強していたことがわかっています。早い段階で恐怖を与え、逃げたら大変なことになると刷り込んで、心理的に拘束したのでしょう。
物理的には拘束されていなくとも、心理的拘束から逃れるのは非常に困難です。
文/出口保行 写真/shutterstock
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