突然途絶えた、未華子からの連絡――

誰かがポンと突き飛ばしてくれれば──喜怒哀楽を示すことなく淡々と語るなか、その言葉に強い引っ掛かりを覚えた。見えない猿ぐつわが、未華子のなかにある。言い換えれば、自分から飛び降りる勇気はない──つまり本音では生き続けたいと、強く警告しているように僕には思えてならない。

それを裏付ける証言を得るべく、僕は琴音と同じように長期の密着取材を願い出ると、未華子は笑顔でそれに応じる。

「40歳くらいで売りをやめたら、さっさと死にたい」──自分への仕送りのために兄は町内会費を横領、自宅の売却話まで。家族と絶縁状態になった歌舞伎町に立つ32歳の街娼の物語_2

しかし未華子は3回目に会う約束を反故にしたばかりか、次の約束を取り付けるため僕がLINEで送ったメッセージを既読することはなかった。
 
めんどくさくなった。よく考えたらメリットがない。理由はいくつも考えられるし、むろん拒否する選択権は未華子にある。未華子のフトコロに入り込んでいたつもりでいても、いつでも裏切っていい存在でしかない。未華子は琴音と「同じ病院に通っている」と話していたことからしても、琴音と同様に統合失調症やASDの症状も多分に影響しているのだろう。そんなはかなさも感じた幕切れだった。