どこにも勝者がいないという戦争がいま展開されている

トッド そうですね……。この戦争は「終わらない」というふうに思います。

池上 私は、このウクライナ戦争はこの先10年は続く「10年戦争」になると言っています。

トッド 私は5年だと思いますね。人口動態で見ると、ロシアの人口が最も減り始めるのが5年後であること、また第1次世界大戦、第2次世界大戦ともに5年ほどで終わったということもあります。

池上 おそらく私が推測するに、プーチン大統領の頭のなかは第2次世界大戦中の1941年6月から45年5月にかけて戦った「独ソ戦」があると思います。

このとき、ドイツの侵略を受けてまさに現在のウクライナの土地で大戦車戦が展開され、4年かかってドイツを追い出した。だから、少なくとも4年ぐらいは続くだろう、くらいのことはプーチン大統領は考えているのではないかなと思っています。

だから、少なくともあと3年間くらいは、やはり私たちも残念ながら、覚悟しなければいけないのかもしれないですね。

それで結果的に、どこにも勝者がいないという戦争がいま展開されているんだということを、これも残念ながら私たちは認識しなければいけないのかなと思っています。

それとも、この戦争が終わったとき、たとえば中国、インド、サウジアラビアといった国が勝者として生き残っているという可能性も考えられるでしょうか。

なぜ、ウクライナ戦争でロシアが勝者になる可能性があるのか「この争いは単なる軍事的な衝突ではなく、価値観の戦争でもあります」グローバルサウスの国々は“むしろロシアに近い”と言われるワケ_4
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トッド そうですね。たとえば二つの国の勢力が対立すると、その後にはその周りにいた国が台頭してくる、ということは歴史のなかでもありました。

第1次世界大戦もヨーロッパのなかで対立が起き、ヨーロッパは自殺するような形で崩れていきました。一方で、対立のなかからアメリカの覇権というものが生まれましたよね。

その意味で、池上さんのおっしゃったような国々が勝者のような形になることはあり得ると思います。ただ、それらの国は世界の覇権を取るほどではありません。

インドという国は、確かに人口が多いんですけれども、ひじょうに多様な国で、またムスリムの人口も多いなど多宗教で本当に不確実なので、ちょっとわからないというところがあるんですけれども、そこまで世界を支配するほどの勢力ではまだない。サウジアラビアなんかもそこまででもないですね。

むしろ、ロシアが勝者になる可能性があるんです。この戦争は単なる軍事的な衝突ではなく、実は価値観の戦争でもあります。西側の国は、アングロサクソン的な自由と民主主義が普遍的で正しいと考えています。一方のロシアは権威主義でありつつも、あらゆる文明や国家の特殊性を尊重するという考えが正しいと考えています。そして中国、インド、中東やアフリカなど、このロシアの価値観のほうに共感する国は意外に多いのです。


文/エマニュエル・ドット、池上彰 

#1『第3次世界大戦はすでに始まっている…ロシアへの経済制裁はアメリカにむしろマイナスに効き、ウクライナ戦争から抜け出せなくなっている』はこちら

#2『ウクライナ支援のために日本や韓国、ドイツという「保護国」に頼りすぎるアメリカ。その背後に潜むドイツに介入する可能性』はこちら

『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 (朝日新書) 
エマニュエル・トッド (著)、池上 彰 (著)、 大野 舞 (通訳)
なぜ、ウクライナ戦争でロシアが勝者になる可能性があるのか「この争いは単なる軍事的な衝突ではなく、価値観の戦争でもあります」グローバルサウスの国々は“むしろロシアに近い”と言われるワケ_5
2023/6/13
869円
200ページ
ISBN:978-4022952233
ウクライナ戦争について、メディアで飛び交うさまざまな言説とは異なる新たなる視点。
「こんなことを話すのは、今日が初めてです」(エマニュエル・トッド)
「新たな視座を獲得するでしょう」(池上彰)

世界の頭脳であるフランス人人口学者のエマニュエル・トッド氏と、ジャーナリストの池上彰氏による初対談本。
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