ソウルの南北問題─江南と江北
ドラマの舞台はソウルの中心部を流れる漢江をはさんで南と北に分かれており、ある意味「ソウルの南北問題」を象徴している。
ドンフンは江南にある大手建設会社に、江北にある自宅から地下鉄で通勤している。ソウルの地下鉄は漢江を渡るときには地上に出るため、ドラマでも川を渡るシーンが効果的に用いられている。
韓国で「江南」と「江北」は常に比較対照される。大企業のオフィスが集まり富裕層が暮らす新しい街「江南」。それに対して、旧市街を中心に広がる「江北」は古い街並みが残る庶民の街である。李王朝の宮殿や仁寺洞、明洞や南大門市場などの観光スポットはこちらにある。
ただ、一つ注意しなければいけないのは、漢江の南側がもれなく「江南」というわけではないことだ。韓国の人々が「江南」と言っているのは、地下鉄2号線の江南駅がある「江南区」、その隣の「瑞草区」、さらに蚕室スタジアムがある「松坡区」という、いわゆる「江南3区」のことである。
ソウル市は全部で25区からなるのだが、この3区はさまざまな意味で突出しており、たとえば3区の財産税(固定資産税)の合計はソウル全体の40%を超えているとか、文字通りの富裕層の街といえる。所得水準、不動産価格、進学実績、さらに選挙の際の政党別得票率なども注目される。
日本でも東京の「山の手」と「下町」、あるいは関西などでも私鉄ごとの沿線イメージに差があるというが、地方出身の私にはいまひとつピンとこない。
ところがソウルに関しては、人々の会話の中から「江南」と「江北」の違いをすぐに知るようになる。これはおそらくソウル市内の南北格差の歴史がとても浅く、また現在進行形でもあるからだ。多くの人々が目撃者であり続けているため、新参者の外国人にも伝わりやすいのだろう。
ソウルは600年以上の歴史をもつ古都だが、その中で江南はとても新しい街だ。1970年代にはまだ広大な田畑と沼地にすぎなかったエリアが、わずか20年ほどで大都市に変貌していった。
文/伊東順子
写真/aflo shutterstock