ワグネルが介入する国の「3つの共通点」

ただ、彼は並のレストラン経営者に止まらなかった。プーチンとの個人的信頼関係を利用し、「政商」としてプーチン政権の陰の重要プレーヤーとなっていったのだ。

プリゴジン氏がコンコルドという持株会社を通じて、プーチン政権のさまざまな政府関連契約を勝ち取ったのは1995年のことだった。軍の食糧やモスクワの学校給食の提供など、いわば究極の随意契約みたいなもので、コンコルドは巨額の利益を上げたとされる。とはいえ、その経営はずさんで、学校給食事業では「食べ物が食品添加物だらけ」と保護者からボイコット運動も起きたほどだった。

ロシア政府との随意契約ビジネスの次にコンコルドが目をつけたのが軍事活動だった。プリゴジン氏からプーチン氏への提案でワグネルという民間軍事会社が生まれたとされるが、そのネーミングはもう一人の創設者、ドミトリー・ウトキン中佐に由来する。ワグネルはヒトラーの好んだ作曲家ワーグナーを指すが、ウトキン中佐がネオナチ信奉者だったことから、この名前が付けられたとされる。

ロシアのウクライナ侵攻でも存在感を発揮したワグネル(写真はイメージです)
ロシアのウクライナ侵攻でも存在感を発揮したワグネル(写真はイメージです)

ワグネルが国際的な表舞台に“デビュー”したのはロシアがクリミアに侵攻した2011年のことだった。ロシア正規軍が動いていないのに、謎の覆面民兵があれよあれよという間にクリミアの軍事基地や議会を占拠した。さらにこの謎の集団はウクライナ東部ドンバスでの紛争にも出動し、めざましい戦果をあげた。欧米メディアはその異様な迷彩服姿から”little green men”と形容した(BBC, 2014年3月11日)。

この覆面民兵こそ、ロシア軍参謀本部特殊部隊(GRU)や空挺部隊特殊部隊(VDV)とワグネルの混成部隊だった。ちなみに、ロシア特殊部隊とワグネル部隊を投入する軍事侵攻作戦はウクライナ戦争開始直後、ロシアが首都キーウを占領しようとした際にも試みられたが、米側に情報を察知されて失敗している。

クリミア半島併合やウクライナ東部での軍事作戦以外にも、ワグネルは陰に陽にロシア軍と連携し、少なくとも世界18カ国で活動している。中東、アフリカが大半だが、活動する国には3つの共通点がある。

第1に統治能力が弱く、治安が悪化している国。第2に権威主義体制や軍事体制の国。第3に希少天然資源が豊富な国の3点だ。

ロシアの「汚れ仕事」を担う便利屋

中東のシリアはバシール・アサド独裁政権が盤石の時は外国勢力のつけ入る隙はなかったが、内戦が激化してアサド政権が弱体化すると、ワグネルはアサド体制を支えるロシアの裏部隊として介入・暗躍した。

ただし、この時は裏部隊としての悲哀も味わっている。ISIS(イスラム国)と闘うアサド政府勢力の支援に投入されたものの、なぜか、同じくISISを叩いていた米軍と交戦する羽目になり、部隊の半数を失った。この時、ロシア政府軍から援軍を拒否されたことがプリゴジンのショイグ国防相への不信感に繋がっているという見方もあるほどだ。

ワグネルのビジネス販路がもっとも拡大したのがアフリカだ。中でも旧フランス領で政情不安定な中央アフリカ共和国はワグネル介入の典型的なケースと言える。反乱軍の鎮静化に悩むトゥワデラ大統領がロシアに支援を要請すると、ワグネルはロシア軍とともに警備・治安部隊訓練のためにアフリカ入りし、警察や消防などの社会インフラを補った。

ワグネルの食い込みぶりは凄まじく、翌年にはプリゴジン氏所有のコングロマリット、コンコルド・グループが中央アフリカ共和国での金やダイアモンドの採掘権も獲得している。

中央アフリカ共和国
中央アフリカ共和国

また、市民に対する日常的な脅迫やハラスメント、恣意的な拘束、誘拐、拷問、見せしめ的処刑など、横暴の限りも尽くしている。こうしたワグネルの犯罪行為を調査・報道しようと現地に入ったジャーナリスト3人が到着3日後に、待ち伏せされて射殺された。

犯人像や背後組織などはいまだ特定されていないが、国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)はワグネルを名指しで人権侵害勢力と指摘している(OHCHR報道リリース、2021年10月)。国連は西アフリカのマリでも同国中部の村で、政府軍と協力してワグネルの傭兵が600~700人の民間人を処刑したと非難している(OHCHR、報道リリース、2023年1月)。

聡明な読者にはすでに明らかだろうが、ワグネルという民間軍事会社(PMC)はロシア政府が大っぴらに認めたくない「汚れ仕事」を担う便利屋なのだ。