職員の多くは数年おきに部署間で異動するゼネラリスト型のキャリアパス

URA(University Research Administrator)も、教学部門で注目される専門職の一つです。一般社団法人リサーチ・アドミニストレーション協議会は、URAを次のように説明しています。

URAとは、大学などの研究組織において研究者および事務職員とともに、研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行って、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える業務に従事する人材のこと

研究開発に関する理解や専門知識を備えた、研究者を支える専門職ですね。我が国では研究資金の調達・管理、知財の管理・活用等を担う専門家が少ないため、研究者に研究活動以外の業務で過度の負担が生じているという指摘が以前からありました。文部科学省もこの問題意識に基づき、URAの育成・定着を後押しするさまざまな施策を行っているわけです。

このURAにも、職員からのキャリアパスが存在します。そもそも以前から大学には、「研究支援課」といった部署が存在していました。ここに配属された職員が前任者などから業務を引き継ぎ、結果的にURAの業務領域に近いことをやっていたケースはあったのです。

ただ、自主的に専門知識を習得して高度な研究支援を試みる職員もあれば、作業マニュアルとして引き継げる範囲の業務や、専門知識を要しない範囲の業務しかしない職員もいます。人によって可能な業務の範囲が違うというケースも多かったのですね。そこでより戦略的、組織的にURAを育成しようと、いま文科省も力を入れているわけです。

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IRerやURAはしばしば、従来型の教員や職員とは異なる「第三の職種」と呼ばれます。いずれは最初からこの職種を目指してキャリアをスタートさせる方も出てくるでしょう。ただ現時点では教員、職員のいずれかが職務をきっかけにしてIRerやURAへキャリアをシフトさせていくパターンが多いこともあり、専門性を柱にして働くスペシャリスト型の職員を目指す方々から注目を集めています。

ほか教学部門では、国際交流やアドミッション(入学者選抜・受け入れ)、アカデミックアドバイジング(学習上の目的達成支援)などの領域でも専門性の高い業務にあたる職員の例がしばしば見られます。法人部門でも広報や財務、ファンドレイジング(寄付金事業や資産運用などの資金調達)といった領域で、実質的にその道の専門家として活躍されている職員の例があります。

職員の多くは数年おきに部署間で異動するゼネラリスト型のキャリアパスで働いており、新しい配属先で常に必要な専門性を身につける必要がある。今後も大多数の大学職員はこのパターンでキャリアを送るでしょう。

一方でIRerやURAのように、異動で習得できる範囲を超えた高度専門職として働くケースは増えていますし、専門職として働くことを望む職員も、業界全体では少しずつ増加していくのではと思います。

文/倉部 史記

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