児童養護施設の職員は「高卒で就職」を勧めるも

「大学は贅沢品」「貧しいなら進学は諦めるべき」という世間の風潮に、児童養護施設から医学部に進学した女子大生が思うこと_1
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2年ほど前、ある学生から「自分を取材してほしい」と連絡がきた。児童養護施設から大学へ進学したというリナさん(仮名・21歳)は、自身が生活した児童養護施設内で感じた、「大学進学はせずに就職」という風潮に違和感を覚えていた。

自身の体験を話すことで、経済的に頼る親がいない子どもたちが進学を諦めてしまう流れを変えたい、という強い思いに触れ、彼女を取材した。

リナさんは小学5年生の時に母親が他界。母親の再婚相手である養父と2人暮らしとなったが、そこで日常的に虐待を受けるようになる。

中学生の時、養父の元を離れ、その後は児童養護施設等での生活を送るようになった。虐待される環境から離れられた後も、食事がとれない、夜眠れないなどの症状が続いたという。

そんな彼女にとって、勉強している時が、つらい過去を忘れ、現実逃避できる貴重な時間だった。勉強に打ち込んだおかげで、次第に安定した成績を残すようになる。

興味本位で主治医の先生に、「楽しい高校ってどこ?」と聞いたところ、返ってきた答えが、その主治医の先生の出身校の名前だった。そこは県下有数の進学校だったのだが、そんなことは知る由もなく、漠然とその学校を目指すようになる。

そしてその進学校に合格。彼女が育った施設には大卒者の前例がなく、職員からも高卒で就職を勧められる環境だった。しかし、リナさんの高校3年次の成績は担任から「医学部は合格圏内」と言われるほど優秀だった。そして猛勉強の末、医学部に現役合格を果たした。

そんなリナさんに現状を聞くと、「とにかく勉強が楽しい」のだという。学年が上がるにつれ、大学での勉強がますます楽しくなっているともいう。

「実習や日常の中で学びが活かされたなと思う瞬間にやりがいや楽しさを感じます。それと、今まで言葉を持っていなかった自分の中のモヤモヤや問題にしっくりくる言葉や分野に出会ったときに喜びを感じますね。やっぱり私、勉強が好きなんだなって思います」

実習も始まったという大学生活は充実したものだというが、虐待の後遺症は高校生の時より悪化しているという。後遺症は決まったトリガーがあるわけではなく、予期せぬ時に起きる。