債務者が得をして、債権者が損をする

もしも、日本政府自身が、増税や大胆な歳出カットを行って政府債務を減らしにかかったとしたら、その痛みが批判の的となっただろう。政治的反発や国民からの不満も高まったであろう。それに比べると、インフレ課税は、秘かに円資産の価値を減価することができる。政府債務残高も、気づかれないうちに重さが軽くなっていく。

国民は、自分たちの円資産の購買力が徐々に消えてしまうことに意識を向けにくい。しかも、円資産を持っている限りは、国民が逃れることが最も難しいかたちの課税方式である。債務者は秘かに得をして、債権者は何も動けないままに損失を被ってしまう。財布の現金や、預金通帳の数字に何も変化が起こらないのに、こっそりと購買力を失っていくのがインフレ課税の怖さだ。

気づかぬうちに円資産の価値がどんどん減価している! 日本国民はほぼ不可避な「インフレ課税」の恐怖_3
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こうした効果について、詳細に過去の分析を進めたのは、20世紀の偉大な経済学者ジョン・M・ケインズ(1883〜1946)である。1923年に出版された『貨幣改革論』では、インフレ作用と財政問題について深い洞察が示されている。

正直に告白すると、筆者はケインズのアイデアを下敷きにして、本書を書いている。ちょうど100年前の巨人の肩の上に乗って、インフレの影響について見通すことができるのだ。

ケインズが指摘しているのは、インフレが富の分配を変えてしまうことである。新しく価値を創出できる企業家(実業階級)はインフレの中で得する機会を得る。反対に、貯蓄者(投資階級)は過去の所得から蓄積された富をインフレで失う。これは、債務者が得をして、債権者が損をするのと同じ意味である。

文/熊野英生 写真/shutterstock

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インフレ課税と闘う!
熊野 英生
気づかぬうちに円資産の価値がどんどん減価している! 日本国民はほぼ不可避な「インフレ課税」の恐怖_4
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
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