現在から過去へ、躍動する捜査劇を

黒川 警察小説はなんで書こうと思ったんですか。

松嶋 こんな言い方したら怒られるんですけど、私は全然書く気がなかったんです。ただ、編集者の方に強く勧められて……。黒川さんはどうして警察小説をお書きになったんですか。

黒川 警察小説は楽ですよ。何が楽や言うたら、事件の捜査に関わっていくのに動機が要らない。仕事ですから。

松嶋 そうですね、確かに。

「警察の隠蔽体質にリアリティーがある」警察小説の大家と元女性白バイ隊員作家が語る“警察小説のリアルとフィクション” 黒川博行×松嶋智左_2
松嶋智左氏。1961年大阪府生まれ。警察官を退職後、小説を書き始める。2005年「あははの辻」で第39回北日本文学賞、06年「眠れぬ川」で第22回織田作之助賞、17年『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』(「魔手」を改題)で第10回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞

黒川 一般人が事件に巻き込まれるいうのはものすごく考えますやん。事件の情報を取るのも難しいでしょう。そやから、主人公の兄が刑事をやってるとか、親戚が新聞記者をやってるとか、みんな無理矢理つくってる。警察小説やとそういう必要がない。仕事やから。

松嶋 そうですね。事件も向こうからやってきますしね。

黒川 でも警察小説で難しいのは、何でも後づけなんです。事件を展開させることができへん。聞き込み、聞き込みって、後づけばっかり。事件そのものが動いていかへん。そやから、誘拐が一番いいんですよ。僕は誘拐小説がすごく多いんですけど、それは事件がリアルタイムで動くから。あそこに行って話を聞く、ここに行って話を聞くでは絶対読者は退屈するやろなと思ったから、デビュー作『二度のお別れ』も銀行強盗が人質をとって逃げる話にしたんです。それは今も同じ考えですね。松嶋さんは警察にいたことがあるから、警察小説のネタには困らんのやないですか。

松嶋 いえいえ。警察にいたといっても短い間ですし、それに下っ端でしたから。だから本当にリアルな警察の捜査は知らないんです。でも、警察にいたおかげで、警察官が特殊な人だとは思わずに済んでいますね。普通のサラリーマンと同じなんだという感覚で書いています。それぞれ悩みがあったり、怒りがあったり、おかしなことをしたりする。実際に警察で目にした経験を基に、人間的な警察小説を書けたらなとは思っています。