TVショー出演のために誘拐計画を実行⁉︎

肥大化した自意識を抱えて生きているパプキンは、家に帰るとジェリー・ラングフォードやライザ・ミネリの等身大パネルに向かいトークを繰り広げ、大勢の群衆が描かれた書き割りを前に、妄想の中でひとり喝采を浴びている。
同居する母親が「静かにして」と口を挟むのが、残酷にも空虚さを際立たせている。
まるで思春期の子供のような、自己陶酔を続ける人生は見ていて悲しくなった。

「デモテープを持ってこい」というジェリーの何気ないひと言を真に受けて事務所に押しかけ、都合よく妄想を膨らませた挙句に、昔から好きだった女性リタ(ダイアン・アボット)を連れてジェリーの別荘まで押しかけてしまうパプキン。
彼を駆り立てる猛烈なエネルギーの裏側には、その分だけ何か逃げたい現実があるのではと感じた。映像には見えない恐ろしさが浮かんでくる。

ジェリーの別荘で冷たく突き放されたパプキンは、ジェリーを人質に取り、代わりにTVショーに出演する犯行計画を企てる。

「どん底で終わるより、一夜の王になりたい」

そこから物語は急展開していく。

狙い通りTVショーでスタンダップ・コメディを披露することになったパプキン。
彼の中に記憶されたジェリーのコメディアンとしての抑揚を引き出し、模倣的な立ち振る舞いをするが、肝心のネタは自身の生い立ちについてだった。

ここで初めて、パプキンという人間の辻褄が合っていく。その見事な構成に固唾を飲んでネタを見守ったが、劇中の観客の笑いはどこか乾いているように思えた。

理解し難く本来なら関わりたくないはずなのに、感情移入し、希望を見出してしまうのがこの男の不思議な魅力だ。

果たしてパプキンは一夜の王になれたのか、ステージの上で何を思ったのか。
ひとりの芸人として、深く共感できる作品だった。

『キング・オブ・コメディ』(1982)The King of Comedy 上映時間:1時間49分/アメリカ

スターを夢見る34歳のルパート・パプキン(ロバート・デ・ニーロ)は、有名コメディアンのジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)の大ファン。出待ち中に熱狂的女性ファンのマーシャ(サンドラ・バーンハード)からラングフォードを救い出したことで、強引に自分を売り込むことに成功する。「事務所に電話をしてこい」と言うラングフォードの言葉を鵜呑みにしたパプキンは、早速オフィスに乗り込むものの、秘書からまったく相手にされず追い返されてしまう。そこでパプキンはマーシャと手を組み、ラングフォードを誘拐してTVショーに出演することを企てる。