顕微鏡のように物を見る目

耳だけではない。目の独特な見え方も、母はユウ君が学校に行かなくなってから初めて聞かされた。

「文字が見えていないんだけど……」

自宅で学習していると、ユウ君がポツリと言った。ユウ君は刺激を遮るため、部屋にテントを張ってその中で勉強をしている。教えるのは母。くわしく聞くと、教科書の一つ一つの文字が、顕微鏡で見るように拡大表示されて見えると言った。

教科書を開いて何が見えるかを母が聞くと、「まるい点々がたくさん」と言った。印刷された文字はインクの無数の点々が集合して見える仕組みであり、その点々が見えているのだという。

「どうやって文字を読んでいるの」。母が聞くと、ユウ君は「見えた部分を、ジグソーパ ズルのように高速で組み立てている」と答えた。そんなことをどうしてできるのかわからなかったが、母はとにかく信じるしかなかった。「三角形は?」と聞くと、「角が3個あるから三角形」と言った。形全体を認識しているのではなく、角の数が三つあることを数えて判断しているということだった。

テストの問題を読み間違えていたのはこのせいだったのかと母は納得した。たしかにユウ君は、点と点に定規をあてて直線を引くことができなかったり、間近にいる鳥の姿を見つけることができなかったりしたことがあった。それもこの独特な視覚のためだったのか、と理解した。

そして思った。もしかしてずっとつらかったの?母がそう聞くと、ユウ君はうなずいた。「もうがんばりたくない」と言い、さめざめと泣いたという。

公園で野鳥を撮るユウ君。驚異的な視力で遠くの鳥も見つけられる〈写真/朝日新聞社〉
公園で野鳥を撮るユウ君。驚異的な視力で遠くの鳥も見つけられる〈写真/朝日新聞社〉

「とにかく情報がほしい」原因を探る日々

最初、母は自閉症を疑った。専門のクリニックに行った。だが医師は「相手の気持ちをくみコミュニケーションをとれる一方、感覚過敏で人と接するのが苦手というのは、当てはまる例がない。特殊ですね」と困惑した表情で言った。眼科や耳鼻科にも通ったが「異常はない」と言われたという。

とにかく情報がほしい。何が原因で、親としてどうサポートしたらいいのか知りたい。
病院を回った。

小学校の養護教諭に勧められ、学校の近くにある小児科の心理相談に行ってみた。そこで発達専門の心理士に診てもらった。心理士はまず、ユウ君と雑談した。そしてこう言った。

「落ち着きぶりや受け答えが、小学2年生ではないです。学校では疲れてしまうでしょう」

そして、発達に関する検査を受けたほうがいいと言い、「WISC‒IV」という知能検査を受けることを勧めた。