見覚えのある植物についた、残念すぎる名前

大きな犬の○○!? オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)

オオバコ科 クワガタソウ属花期は2月〜4月。草丈は15cm〜30cmで地面を這うように広がり、陽が当たっている間だけ花を咲かせる1日花。
オオバコ科 クワガタソウ属
花期は2月〜4月。草丈は15cm〜30cmで地面を這うように広がり、陽が当たっている間だけ花を咲かせる1日花。

春の訪れを告げるように、可憐な青い花を咲かせるこの花は、誰でも一度は目にしたことがあるはず。ところが、名前を知ってビックリ。

なんと、大きな犬のフグリ…陰嚢…つまり睾丸だというのである。どうして牧野氏は、かわいい花に似合わない名前をつけてしまったのだろうか?

実はイヌノフグリという植物は、江戸時代後期に出版された植物の本に載っている、在来種。果実の形がオス犬の陰嚢に似ていることから、そう呼ばれていたという。

しかしあるとき牧野氏は、イヌノフグリより大きな花を咲かせるものを発見。調べてみたところ、ヨーロッパ原産のVeronica persica Poir.であることが判明し、和名を「オオイヌノフグリ」とした。

『新牧野日本植物図鑑』には「蒴果ハいぬのふぐりニ似テ大ナリ」とあり、どうやら花だけでなく、フグリのほうもビッグなようだ。

ちなみにイヌノフグリの仲間には、タチイヌノフグリやコゴメイヌノフグリなどもあるが、いずれも牧野氏の命名ではないとのことである。

掃き溜めに鶴…ではなく、ハキダメギク(掃溜菊)

キク科 コゴメギク属初夏から秋にかけて、道端などに生える菊。高さは10〜40㎝ほどで、直径が5㎜ほどで、真ん中の部分は黄色、花びらが白い小さな花は、よく見るとかわいらしい。明治以降に日本に入ってきた外来種。
キク科 コゴメギク属
初夏から秋にかけて、道端などに生える菊。高さは10〜40㎝ほどで、直径が5㎜ほどで、真ん中の部分は黄色、花びらが白い小さな花は、よく見るとかわいらしい。明治以降に日本に入ってきた外来種。

ヘクソカズラ(命名は牧野氏ではない)と共に、残念な名前の代表といわれるのが、このハキダメギク。

なにしろ、ハキダメとはゴミ捨て場のことなのである。牧野氏が東京世田谷区経堂のゴミ捨て場で見つけたのでこの名がついた…というのはけっこう有名なエピソードなのだが、調べてみると牧野氏がこのとき見つけたのはコゴメギクという種類かもしれないのだという。

この2つは本当によく似ていて、強いて言えばコゴメギクのほうが花びらが小さく、地味かなというくらい。いずれにしても、ゴミ捨て場の菊という名前をつけられてしまった菊の花は「残念…」と思っているに違いない。


まるで悪いポケモンみたいな、ワルナスビ(悪茄)

ナス科 ナス属欧州原産の多年草。高さ30〜50センチほどで、茎、葉、花のガクにトゲを持つ。初夏に白、または淡紫のジャガイモに似た花を咲かせたあと実がなるが、食用にはならない。
ナス科 ナス属
欧州原産の多年草。高さ30〜50センチほどで、茎、葉、花のガクにトゲを持つ。初夏に白、または淡紫のジャガイモに似た花を咲かせたあと実がなるが、食用にはならない。

悪いなすびと名付けられたこの植物は、その名の通り、畑の悪者。牧野氏が下総(千葉県)を訪れたときに牧場で見つけ、珍しいと思って持ち帰り、自宅の畑に植えた。すると、あっという間に大繁殖し、隣の農家の畑にも入り込むほどになったという。

茎や葉にはトゲがあり、実を食べることもできないため取り去ろうとしても、ほんの少し残った根から芽が出てしまい、キリがない。この顛末は牧野氏の著書『植物一日一題』に詳しく書いてあり、どれほど困り果てたのかが偲ばれる。

ワルナスビはアメリカでも「Apple of Sodm(ソドムのリンゴ)」などと呼ばれて嫌われているそうだ。