日本のムスリム人口

日本に住むムスリムは、在留外国人では2018年6月時点で15万7000人とされる(「信仰の自由に関する国際報告書〈2020年版〉―日本に関する部分」、在日米国大使館と領事館)。日本人のムスリムを合わせて約20万人と推計され、全人口の0.16%に相当する。外国籍のムスリムは在留外国人全体の7%弱と想定され、その割合は小さい。その多くがインドネシア、パキスタンであり、バングラデシュその他、少数だが中東、アフリカ出身者、さらに米国やヨーロッパ出身者らもいる。

日本に住むムスリムは東南アジア出身者が多いが、日本の文化との親和性が強く、彼ら自身、排他的なコミュニティを作ることなく、多くは日本社会の一員として溶け込んで暮らしている。

宗教上の理由で、ハラールフードの入手や、祈りの場所としてのモスクが近所にないなどの課題を抱えているものの、現状を見る限り『西洋の自死』が指摘するヨーロッパが直面するような課題が日本に起こるとは考えにくい。

また今後、移民の数が増えたとしても、ムスリム国から優先的に受入れるなどの特別な措置を行わず、通常の移民政策をとる限り、移住者の多くをムスリムが占めるような事態にはならないだろう。

ただし、ムスリムという日本人がこれまで経験してこなかった人びとを受入れるには、社会において一定の知識や対応が求められる。すでに全国にモスクは100カ所以上あると言われる。日本人の異文化理解を進める上で、異文化度の高いムスリムは格好の学びの対象になるだろう。東京・渋谷区には東京ジャーミイと呼ばれる日本最大のモスクがあるが、ムスリムに興味を持った日本人がひっきりなしに訪れている。

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コロナ禍前、国際交流基金は「東南アジア・ムスリム青年との対話事業(TAMU)」を行っていた。東南アジアのムスリム青年を日本に招き、彼らが日本の各地域を訪問し、日本の文化や課題を現地の人びとから聞き、また意見交換をするという事業だ。

2018年、筆者は日本の人口減少の課題について話をするため、東京で行われた彼らと日本のムスリム青年との対話の場に参加した。驚いたのは日本人でムスリムとして生きる青年が身近に存在することだった。日本人参加者には慶應大学や早稲田大学の学生が含まれており、慶應大学の女子学生は長年、家族とともに中東で暮らした経験から、両親ともムスリムに改宗しており、ヒジャブ(頭と首を覆う布)をつけて参加していた。

彼女のように日本人でありながら家族ぐるみでムスリムというのは極めてレアなケースだろうが、ムスリムとの国際結婚によってムスリムに改宗するケースや、その子どもがムスリムとして日本で育てられるケースも増えている。

1980年代以降の外国人ムスリムの流入と、国際結婚の結果、国内にもムスリム家庭が形成されている。日本人がムスリムと結婚するときはムスリムへの改宗を求められることが多いからだ。誕生する第二世代は通常、幼い頃からムスリムの価値観のもとに育てられるが、なかには、学童期から差異を意識し続け、家庭の価値観と級友らの意識や生活のギャップに苦しむ青少年も多いという。

移民の数が増えてくれば当然、ムスリムの人びとも入ってくる。しかし、22世紀の日本はともかく、少なくとも今後数十年はムスリムの人口が10%に達するような欧州の状況と、日本の将来を同一視して心配する必要はない。ただムスリムに限らず、今後、南アジア、西アジア、最終的にはアフリカといった文化や習慣の違いのより大きな人たちが増加するのは間違いない。その意味で、日本人は異文化に対する寛容性、対応力を上げていくことが必要不可欠になるだろう。