「初夜」というシステムは理にかなっていた

では、今はどうなのだろう? 「お見合い」の代わりにアプリがある。

「アプリで確率が90パーセントだったから」「マッチングしたから」「『いいね!』が50ついていたから」……。AIによる相性やおすすめのサポートでマッチングして、その後もAIの指示で結婚という目的地にオートマティックに連れて行ってもらえるのなら、こんなに楽なシステムはない。でも現実にはマッチングしてから交際、結婚にたどりつくまで、2人で試行錯誤しながら進まなければならない。

運よくおたがい恋に落ちて真剣な恋愛の末に結婚する人もいれば、ある程度、打算で相手を選ぶ人もいるだろう。アプリ婚をした人の中で何割ぐらいが、恋愛感情なしのまま結婚しているのか?

恋愛感情がなくてもおたがいへの配慮あるコミュニケーションがあれば結婚は成立するが、非性的関係のままでは長続きはしない。つまり「初夜」というシステムがあった昔のお見合い婚システムは、ちゃんと理にかなっていたということになる。

会う前から「愛している」「いいね」を連打して終わり…マッチングアプリを長く使ってもなかなかうまくいかない男たちの特徴とは_4
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ヒロさんの場合は配慮あるコミュニケーションは取れていたが、非性的すぎて個人的な親密さがあまりに薄かった。

ではキスをしたりハグをしたり、あるいはセックスをすればよかったのか、というとそういうことでもない。非性的な「社会的存在」としてのヒロさんは印象に残ったが、性的な個体としての彼がまったく見えなかったのが、それ以上進めなかった理由かもしれない。

リョウさんとヒロさんは性的なプレゼンでは真逆の2人だったが、どちらもマッチング依存の相手の中ではかなり印象的だった。リョウさんは性的なアプローチしか知らず、ヒロさんは非性的なアプローチしかできなかった。やはり両方できて初めて本物のマッチングなのだ。この2人との出会いでそれを痛感した。

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『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』 (朝日新書)
速水 由紀子
2023年6月18日
979円
280ページ
ISBN:978-4022952226
結婚相手を見つけ、2人で退会するのがマッチングアプリのゴール。しかし本書では、このアブリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う。アプリで次々に訪れる流動的な人間関係の刺激は、中毒性が強い。相手をどんどん乗り換え続けることで生きる糧を得ている人々、離婚や失恋でトラウマを抱え、婚活と名乗りつつセフレ的な付き合いしかできなくなった人々、等身大な自分を見失って500の「いいね!」をコレクションし、自己肯定感の上昇のみを求める人々。マッチングアプリの婚活沼に依存するディープな住人たちを、「マッチング症候群」と名付ける。 * 恋愛をメンタルを不安定にするリスク要因と捉える20代にとっては、言い争いや修羅場、負の感情の存在しないアプリは心地よい理想の場。 * 年代が上がるにつれて利用期間が長くなり抜けにくくなる→40代50代は婚活ではなく、孤独な老後の友人達を増やすだけ * 特に数々の恋愛で目が肥え妥協できなくなっているアラフォー女性たちにとっては、イケメンな富裕層経営者やハイスペックなモテ男とマッチングし、会って食事できることほど自己肯定感を上げてくれることはない。その本命になるのはほぼ絶望的だが、高級店でディナーを奢ってもらい言葉上手に口説かれて舞い上がれる。「自分はまだまだイケてる」と信じられる…etc.
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