“飲み物ビジネス”は詐欺なの?
翌日の日曜日も、日が昇りはじめた頃に、ヒロトは駅前に向かった。やるべきことは土曜日と同じだ。
「つめたーいお茶、ジュース、コーヒー、なんでもありまーす。冷たい飲み物はいかがですかあ」
しばらくして今日も1人、2人。そして1本、2本、と、売れ始めた。飲み物を売り始めて30分くらいしたころ、リンがヒロトのほうに向かってきたのが見えた。ヒロトは面倒になる予感がして、とっさに売り物を隠そうとあたりを見回したが、そんな都合のいい場所はなかった。
「......やっぱり、なんか悪いことしてんのね」
「いやあ」
「......昨日も何かやってたよね? ほんとは見てたんだから」
もうこれは逃げられないとヒロトは悟った。しかたなく、ヒロトはこの飲み物ビジネスについて説明した。しばらく間が空いて、リンが口を開く。
「......そんなの、サギじゃん、ズルじゃん、悪いことじゃん」
リンらしい反応ではある。リンはとにかく決まったこと以外は悪だと思っているからだ。
「へっ? ズル? ちがうよ、ビジネスだってば」
「......あやしい。だって50円のものを100円で売ってるんでしょ? テンバイとかっていって、ニュースでみたことある」
「えと、50円のは麦茶だけで、ほかのは60円とか......。80円くらいのもあるよ」
「......そういうことじゃないよ! ひとをだましてるんだね」
「いや、いや、これはちがうよ。テンバイ? じゃないよ」
「......ともかく、先生に言うから」
「ちょ、ちょっと待ってよ。誤解だよ。ちゃんとしたビジネスだってばっ」
「......明日、先生に言うからね!」
「そんなあ」
ヒロトだってやっかい事は嫌いだ。先生がどんな反応をするのか、わかったもんじゃない。
「......じゃあ、あんたがもうこんなことしないって約束するなら、先生にだけは言わないでいてあげる」
「わかった、わかったよっ。もうやらないからゆるして、ね?」
......こうして、ヒロトの夢は1日でやぶれてしまった。
1000円が2000円になって、そのうち1000円がまた飲み物になったから、儲けはほとんどないに等しい。あとには、ヒロト1人では飲み切れないほどの飲み物と、日曜日の最初のほうに売れた代金二百円だけが残った。
「なーんだ、これじゃあ、意味ないや」
家に帰ると、ヒロトはそうつぶやいた。「ちえっ。こういうこと、先に教えといてよっ」いいながら、ヒロトはまた『教科書』を開いた。そのうちに、「リーダーシップ」という項目に目がとまった。
〈まずは自分が常に相手に何かを与えること。そして素晴らしい夢を語ることが必要だ。〉
「............ふうん」
どっと疲れがやってきて、そのままヒロトは夕飯の時間まで眠ってしまった。
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