いかにして中国に依存しないサプライチェーンを構築するかで

これらにくわえ、とくにコロナ禍で起きた中国との軍事対峙以降、インドが強い関心をもつようになってきたのは、経済安全保障の観点から、いかにして中国に依存しないサプライチェーンを構築するかである。

2020年、モディ政権は、生産連動型優遇策(PLI)を発表した。これは、医薬品、自動車、携帯電話、電子機器などの部品・完成品をインドで生産すれば、その生産高に応じて政府の補助金が企業に支払われる仕組みだ。投資を呼び込んで「メイク・イン・インディア」を実現するための具体策として注目されている。

その後、モディ首相は2022年のIPEF参加に際して、サプライチェーン強靭化を、信頼、透明性にもとづきできるだけ早く進めなければならないと強調した。モディ首相自身が掲げる「自立したインド」という目標のためには、脱中国のサプライチェーン構築は喫緊の課題と位置づけられており、その点での日本やクアッドの役割への期待は大きい。

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世界の多くの企業は、コロナ禍で中国からの部品調達に苦労した。いまや中国依存のサプライチェーンの危険性は、世界でひろく共有されているように思われる。米アップル社は、iPhoneなどの製造を中国からインドに移しはじめた。一部では中国経済からの切り離し、いわゆるデカップリングがすでにはじまっている。日本企業にとっても、サプライチェーンの多元化は重要な検討課題となりつつある。PLIスキームなどを活用して、インドを生産拠点のひとつにくわえるかどうかを真剣に検討すべきときであろう。

このように国も企業も、双方の利害が一致するところで付き合っていく、プラグマティックな姿勢が、まず必要だろう。

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『インドの正体-「未来の大国」の虚と実』 (中公新書ラクレ)
伊藤 融 
2023/4/7
902円
208ページ
ISBN:978-4121507938
この「厄介な国」とどう付き合うべきか?

「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインド。実は、事情通ほど「これほど食えない国はない」と不信感が高い。ロシアと西側との間でふらつき、カーストなど人権を侵害し、自由を弾圧する国を本当に信用していいのか? あまり報じられない陰の部分にメスを入れつつ、キレイ事抜きの実像を検証する。この「厄介な国」とどう付き合うべきか、専門家が前提から問い直す労作。
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