――また本書では、いわゆる健康神話が本当に正しいのか、という見地にも立たれています。 「6時間睡眠が良い」というのは日本だけのものだというのにも驚きました。津川先生がお住まいのアメリカと日本では健康意識に差はあるように感じられますか?

 平均すると日本人のほうがアメリカ人よりも健康意識が高いと思いますが、その一方で、日本では間違った健康情報を信じてしまっている人も多い印象があります。アメリカ人は、健康意識が高い人の絶対的な割合は少ないのですが、健康意識の高い人同士を比較すると、アメリカ人のほうがよりエビデンスに基づいた正しい知識を持っている印象があります。

――それはなぜでしょうか。

 一因としてあるのがメディアの役割だと思います。アメリカの大手メディアは医学専門のジャーナリストがいるなどの理由で、科学情報をかなり正確に説明しているものも多いのですが、日本のメディアは健康情報に関して玉石混交な質のものを流布している気がします。そのぶん、受け手側はどれが正しいエビデンスに基づいた健康情報なのかを慎重に選び取る必要性がありますね。

――ここ数年で「エビデンス」という言葉が、特に健康にまつわる話題において頻繁に使われるようになった気がいたします。日本では、まったくエビデンスのない健康情報や、エビデンスがあるとうたいつつも実はない健康情報が溢れています。そのような状況につきましてどのようにお考えでしょうか?

 私も書店に行って、残念なことにあまりにもエビデンスが不確かな健康本が溢れていることに驚きました。売れているものの中にも多いです。またテレビやネットでもそのような情報が溢れています。

――そのような状況を改善するためにはどのようにすればよろしいとお考えですか。

 例えば『健康になりたかったら野菜を食べなさい』という本があったとしたら、それはなかなか人の興味を引きづらいのではないでしょうか。逆に『健康になりたかったら野菜を食べるな』という本は売れる可能性があります。エビデンス的には全く間違いであるにもかかわらずです。センセーショナルな情報に疑いの目を持つということを受け手が意識することが大事なのではないかと思います。

――それでは最後に、どういった方に読んでいただきたいか教えていただけますでしょうか。

 まずは健康に関心のある方に読んでいただきたいです。健康に関する情報は玉石混交であるため、実は健康意識の高い人ほど逆に間違った情報を入手しており、良かれと思ってやっていることが、健康の向上につながっていない可能性があります。有象無象の研究がありますので、どの情報が正しくて、どの情報が間違っているのか難しいと感じている人も多いと思います。この本では質の高い研究結果を厳選してまとめてありますので、そういった形で迷子にならずに、正しい知識を最短で身につけていただけると思います。その次に、健康にあまり関心のない周りの方にぜひ薦めていただきたいと思っています。何をしたらいいかわからないから関心が出てこないという人もいると思います。どうやったら確実に健康になれるかわかれば実践してみようという気になるかもしれません。そういった人にこそ読んでいただきたい一冊です。

「小説すばる」2022年2月号転載

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