――「7時間以上眠る」「白米やパスタなど『白い炭水化物』を控え、玄米や蕎麦など『茶色い炭水化物』を食べる」「毎日少しだけでも歩く量を増やしていく」など、本書で紹介されたルール、津川さんはどれくらい実践されていますでしょうか。
 これは必ず実践しているというものがございましたらいくつか教えていただけますでしょうか。

 私も人間ですのですべてを実践できているわけではありません。しかし、正しい健康知識を持っている上で生活をするのと、そうでないのとでは明確な違いがあると思います。すべてエビデンスに基づいて意思決定しているので、平均すると健康的な生活習慣をしていると言えると思います。

――それでは、ルールを実践するコツのようなものはなにかありますか? 例えば、「全部守ろうと思い過ぎない」ことなどが大事なのかなと思うのですが……。

 『意志の力』で生活習慣を変えようとしないことが重要です。健康的な生活習慣ができるかどうかを規定するのは意志の力ではなく、『仕組み』の問題だからです。行動経済学でよく言われていることですが、努力せずに健康的な生活習慣ができるような仕組みを作ることが重要なんです。
 例えば「食事」に関しては、空腹になって血糖値が下がると判断力が鈍るということがわかっています。すると、鈍った判断力によって、ついつい不健康なものを選択しがちになってしまいます。この問題を解決するには、その場で何を食べるか決めるのではなく、あらかじめ食事内容を決めておくことが必要になります。つまり、1週間のランチのメニューをあらかじめ注文しておくことができれば、その場で決めるよりもかなり健康的な食事を選ぶことができると思います。 このようにあくまで『意志の力』で生活習慣を変えるのではなく、『仕組み』自体を自分の中に組み立てていくことがなによりも大切です。

――その「食事」の項目では、健康に良い食材、悪い食材について詳しく紹介されています。ハムなどの加工肉が発がん性物質を含んでいることや、牛肉や豚肉といった赤い肉が病気のリスクを上げるというのはかなり衝撃でした。白米も糖尿病のリスクを上げるというのもショックです。ただ、どうしても焼肉と白いご飯を食べるのが幸せと思う人もいるのではないかと思うのですが……健康と幸福度のバランスはどのようにとっていくのが良いとお考えでしょうか。

 正しい知識を持った上で、自分で幸福と健康を天秤にかけて意思決定したことであれば、それはそれでよいと思っています。むしろ、健康のために幸福を犠牲にするのは本末転倒だと思いますので。しかし、健康に関する知識が不十分であったり、もしくは間違った知識を身につけてしまっていたりすることで、自分にとって最適ではない意思決定を日々している人が多いと思います。この本を通じて正しい知識を身につけて、その上で、必ずしも健康優先でなくてよいので、自分にとって最適な生活習慣を選んでいただきたいと思っています。