被告の町・県は「公立教員の残業は自発的行為、管理側に安全配慮義務違反はない」
当時、富士男さんを愕然とさせたのは教育委員会の担当者から出た「亡くなったことは残念ですが、皆に慕われたいい先生でよかったではないですか?」という言葉だった。
「『いい先生』は熱心さが行きすぎてみずからを追い詰めてしまうということか? 謝罪の言葉もなく、管理側は責任を感じていないのか?」
息子が死ななければならなかった本当の理由が知りたい。そう考えた富士男さんは2017年2月、友生さんの勤務していた若狭町と福井県を相手取り提訴。パソコンなどの記録から、月の残業時間が128~161時間にのぼると訴えた。
一方、被告となった町と県は、「給特法により公立教員の残業は自発的行為と判断されるため、管理側に安全配慮義務違反はなかった」と主張。法廷で、教師の長時間勤務を野放しにする法律の存在が露わとなった。
学校の働き方改革が進みつつあると言われるが、本当にそうなのか
福井地裁は2019年7月、原告である富士男さん勝訴の判決を出した。公立教員の長時間勤務による過労死事案で、損害賠償を認めた全国初の判決となった。
その後、異例なことに町と県は控訴せず、富士男さんの勝訴は確定した。
それから数年が経った。
教師のうつ病などの精神疾患を原因とする休職は、5000人を超えて高止まりが続いている。最新の調査である2021年度は前年から694人増加し5897人と、過去最多を記録した(文部科学省「令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査」)。
嶋田富士男さんは昨今の状況を踏まえ、次のように語る。
「この数年間、徐々に学校の働き方改革が進みつつあると言われるが、本当にそうなのか。友生の死が活かされたとは思えない。問題の根本は何一つ変わっていません」