現場教師の6割が「教師のバトンは渡せない」

重要なのは、このように学校現場をネガティブに捉える向きは、ネット上に溢れる顔も見えない「一部」の教師のみではないということである。「学校の業務に関する調査」(2021年11月、名古屋大学大学院の内田良教授らのグループが実施)によると、「自分の学校の子どもに教職を勧めることができない」と答えた教員の割合は、60.0%(N=924、小中学校教員)。現場の教師の実に6割が、「教師のバトンは渡せない」と考えているのだ。

文科省による「#教師のバトン」プロジェクトが始まって3週間後、私は内田良さんらとともに、現役教師の生の声を伝えるためのオンラインイベントを開催した(「Twitterの外へつなげ!「#教師のバトン」から声をあげよう!」2021年4月18日)。事前に発言者を募集したところ、「ほとんど集まらないかもしれない」という主催者側の不安を覆し、70人の教師が「話をしたい」と手をあげてくれた。顔を隠して音声を変えるという条件だったものの、SNSでの発信よりもずっと身バレのリスクを感じたはずである。しかしそれ以上に、文科省等の政策立案者に現場の思いを知ってほしい気持ちが勝まさっているように感じられた。

発言者のうち、青山さん(仮名)という小学校教師は次のように話した。

教師を自死にまで追い込む「命令なき超過勤務の強要」…先生”定額働かせ放題”の奴隷制度に「死にたい」の声_4

「子どものため」に必要と言われれば、無限にやることが増える

「私は今、うつ病で学校を休職しています。同じような状況の友人が3人いて、薬を飲みながら学校で働いています。『子どものため』に必要と言われれば、無限にやることが増えてしまいます。学校現場では、子どものためを考えない先生などいないと思います。しかし子どものためにと上から創意工夫を求められる風潮が、先生たちを追い詰めます。教員を増やすべきですが、それがすぐに難しい状況であれば、文科省が矢面に立つ覚悟で『子どものためであっても、これは禁止します』という禁止項目を発表するなどの強い措置が必要だと思います」

「実は今、転職を考えています」と言いながら、震える声で教育界のために声を上げる青山さんの話は、進行役の内田良さんが不意に涙を流してしまうほど切実なものだった。

「学校の業務に関する調査」によると、「過去2年間に辞めたいと思ったことがある」教師は全体の65.8%(N=924、小中学校教員)に上る。