遅刻、締め切り遅延、電話でのミス……やる気と結果のミスマッチに苦しむ人々
——先生が日頃、会社員の方から受けている「仕事がうまくいかずに困っている」という相談の中には、具体的にどのような内容が多いのでしょうか。
「タスクを早く消化できない」「仕事の段取りが悪い」といったお悩みはとても多く、本人が困って相談に来られるケースもあれば、周囲の人から相談されるケースもあります。
例えば「何度も注意されているのに遅刻癖が治らない」という方。遅刻について上司に叱責されて反省文を提出していたり、処分もあり得ると厳しく指導されていたりするのに、なかなか改善できないというのです。
遅刻する理由は「朝出かける直前にいろいろと用事ができてしまうから」とおっしゃいます。一例を挙げると「朝の情報番組で冷蔵庫の掃除テクニックが放送されていたので、つい冷蔵庫の整理を始めてしまった結果、遅刻した」という具合です。
この方のクセは、目の前に出現したタスクにすぐに取りかかってしまうこと。他人から見れば、冷蔵庫の整理は、遅刻してまで行うほどのタスクではないのですが、本人は大真面目です。
——こうしたクセは、他の業務にも現れるのでしょうか。
そうですね。この方は仕事の能力は高いのに、優先度が高い業務を後回しにして優先度が低い業務に取りかかってしまうことが多々あるとのこと。
重要な業務に取り組んでるときに、偶然通りかかった他部署の人に「給湯室が散らかっているからきれいにしたら?」と声をかけられると、重要な業務を脇に置いて掃除を始めてしまうこともあったとか。
優先順位の高さを判断できずに仕事をしていると、当然ながら重要なタスクの締め切りを守れなくなってしまいます。
——電話に関する業務が苦手な方も多いと聞きます。電話対応に関する相談もありますか?
あるとき「仕事に行くのがつらい。仕事のことを考えると眠れない」と悩んでいる方がいらっしゃいました(※)。彼が心身に不調を来した直接的な原因は、電話対応に関する大クレーム。彼はもともと電話対応が苦手で、電話をとってメモを取りながら話を聞き、上司に報告するといった流れをこなすことが難しく、いつも頭が混乱してしまうのだそうです。
そんな彼が先日、電話で難しい質問を受けてしまい、保留にして調べていたところ、突然の来客があって電話を長時間放置してしまった……というのが大クレームの概要でした。
これをきっかけに、彼はさまざまな「苦手」によって、生きづらさを感じていたと吐露。電話が苦手という特徴を掘り下げていくと、「マルチタスクが苦手」や「耳から聞いた指示が残りにくい」という問題も明らかになりました。口頭で手順を説明されると右から左に抜けてしまい理解できず、上司からは「仕事の覚えが悪い」と指摘されていたのです。
こういった悩みを抱えている方は、決して仕事へのモチベーションが低いわけではありません。むしろ真面目で実直にお仕事に向き合っている方ばかりです。
※相談者が特定されないよう、表現に配慮しています。