変化球は一度も教えなかった
――ダルビッシュ投手の武器は速球だけではなく、アメリカでは多彩な変化球を投げる投手として知られています。『ダルビッシュ有の変化球バイブル』という本が出版されているほどですが、変化球も早くから山田会長が教えたのでしょうか?
中学生のころは変化球など投げなくてもいいというのが私の指導方針です。それよりもストレートをストライクゾーンの四隅にしっかり投げ分けられることのほうがずっと大事でしょう。だから、ダルビッシュには「ストレートを四隅に投げ分けることができれば、それ自体が変化球のようなもの」と、一度も変化球を教えませんでした。
それでもあの子は変化球を投げたかったようで、自分で投げ方や握りを研究して7~8種類の変化球を見につけました。今、流行りのツーシームも中学時代にはマスターしていたし、スライダーなどは驚くような鋭い変化をして周囲を驚かせていました。
なにしろ、右バッターがのけぞるようなインコースの球が途中から30センチ近くも曲がり、アウトローにズバンとキマるんですから。中学生レベルではとても打てっこありません。ダルビッシュは7イニング制の少年野球で一試合16個もの三振を奪ったことがありますが、それも当然という感じでした。
――指導者が教えてもいないのに、それだけ多くの変化球を投げられるものですか?
もちろん、研究熱心なダルビッシュの努力もありますが、それ以上にあの子の性格が大きいと思っています。とにかく超のつく負けず嫌い。たとえ練習試合であっても打たれたりすると、悔しくて悔しくて眠れない(笑)。それで次は絶対に負けるもんかと、それはもう必死で練習に打ち込むんです。とてもシャイな性格ですから、練習する姿を他の選手に見られるのが恥ずかしいと、隠れて練習していたこともありました。
あの子は基本的に練習嫌いなんですが、その練習嫌いを上回るほどの負けず嫌いだったので、結果的に練習の虫になってしまうんです。変化球も自分で野球の教本を読むだけでなく、自宅で寝転がって天上に向けてボールを投げ上げ、握りや回転を確認しながら習得していったと聞いています。
♯2「マウンド上で瞬時に相手打者の長所と短所を把握してしまう」恩師が語る、ダルビッシュが生まれながらに持っていた“投手として一番大事な能力” に続く
取材・文・撮影/集英社オンラインニュース班