視線と指だけですべてを操作

わずか30分ほどの体験だったが、もう1つ驚いたことがある。操作が簡単で、まったく迷うことがなかったのだ。

VR用ゴーグルというと、ゴーグルを装着したうえで、右手と左手にコントローラを持たされて……という様子を思い浮かべる人は多いだろう。しかしVision Proでは、装着するのはゴーグルだけ。

Vision Proの世界は、すべて自分の視線と指だけで操作をする。

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Vision Proではコントローラを持たず、ゴーグルを装着するのみで操作可能(写真/apple.com)

本体を右手で掴むと、ちょうど人差し指の来るところにダイアルのようなもの(デジタルクラウン)があるので、これを押すと目の前にアプリのアイコンが表示される(部屋の中空に突如アイコンが現れるので、最初はビックリする)。

そのうえでアイコンを眺めていくと、視線の先のアイコンが反応し、立体効果がかかる。その状態で親指と人差し指をくっつけると、そのアプリが起動される。

同じ要領で2本の指で宙を摘むようにして上下、左右に手を動かすとWebブラウザをスクロールしたり、ページを左右に送ったりすることができる。

部屋の中空に突如現れるWebブラウザの画面やパソコン用ソフトの書類画面は、ゴーグルの左右両方が4Kテレビ以上の解像度というだけあって、非常に表示が鮮明で文字も読みやすい。

Appleは、Vision Proの視界の中で、これまでパソコンで行っていたビジネスアプリの利用なども想定している(発表時の講演映像では、Macの画面がMac本体から飛び出して宙に大写しになる様子も紹介されていた)。たしかに情報がかなり大きく表示できるので、視力が低下している人にもよいかもしれない。

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本体に搭載されたデジタルクラウン(写真/apple.com)

そんなVision Proにも、ひとつ難点はある。それは、価格が3499ドル(約48万8000円)と高価なことだ。

しかし、今回体験してみて、その意図も少しわかった気がした。

たしかに現在のVision Proは、これまでのVRゴーグルがおもちゃに見えてしまうほど、質の高い体験を実現している。

コンピュータ製品は時間が経てば、より高い性能のものをより安く作れるようになる。買いやすさを優先させて、体験の質を妥協するのではなく、まずは「質の高い体験」を優先して、これから同製品用にアプリを作ってくれる開発者たちにも、それと同水準の質の高いアプリを作ってもらおうということなのだろう。

そのため最初の数年間、ユーザー数はかなり限られてしまうが、その分、ほかに類を見ない最高品質の空間コンピューティング体験を提供する。そうやって世代を重ね、アプリが揃ってきた段階で、もう少し手頃な製品も出していこう、というのがAppleの算段なのではないだろうか。

文・写真/林信行