フジモトの正体は『海底二万里』ノーチラス号の生き残り
ところでアンコウの生殖方法はかなり独特で、性的寄生と呼ばれています。
まず小柄なオスがメスに嚙みつきます。そしてこれが寄生と呼ばれる所以なのですが、そのままオスの全身はメスの体に埋め込まれていき、やがて目もヒレもほとんどの内臓が退化してなくなります。精子放出に特化したメスの臓器になると言えば、わかりやすいでしょうか。メスに完全に吸収されてしまうわけですね。
メスはこうやって生涯に何度もオスを吸収していきます。どうでしょう、かなり恐ろしい話ではないでしょうか。フジモトのもとに定住しないグランマンマーレですが、お得意の光でオスを誘導して吸収してまわっている普段の日々が想像されます。
ではなぜ、フジモトは吸収されないで済んでいるのでしょうか。
グランマンマーレがアンコウというように、フジモトにも出自が設定されています。フジモトは、ジュール・ヴェルヌのSF小説『海底二万里』に出てくる潜水艦ノーチラス号の生き残りです。
他の夫たちはどうなった…もう死んだのか、吸収されたのか
この設定は劇中でも暗示されていて、フジモトが生命の水を抽出しているシーンで、一番古い壺に「1871」と年号が刻まれています。ワインのように生産年を記録しているわけですが、1871年というのは、1869年から1870年にかけて連載された『海底二万里』の単行本が初めて刊行された年です。
『海底二万里』は同時代を舞台にしているので、『海底二万里』の物語のあとにグランマンマーレのもとで働き始めたということは、1871年が最初の仕事だということで辻褄が合います。
フジモトは1871年から現在まで、生命の水を精製して管理する仕事をしてきました。フジモトは、生殖以外の方法でグランマンマーレの役に立ってきた。だからこそ、ほかの夫のように同化吸収されずに生き残ってきた。そう考えるのはいかがでしょうか。
グランマンマーレにはフジモトのほかにもたくさんの夫がいるはずですが、海のなかでせっせと生命の水を作っているフジモト以外にまったく気配が見えないのはなぜかというと、おそらくほかの夫はもう死んでしまったか、あるいはせっかくアンコウにわざわざ設定しているのですから、すでにグランマンマーレに同化してしまったと考えるのが適切だと思います。