宮崎駿、堀越二郎、それぞれの罪と罰
本書刊行現在のところ公開されている宮崎駿の最後の作品が『風立ちぬ』です。『ナウシカ』から数えることちょうど10作目。これまでのファンタジーから離れ、初めて実在の人物をモデルにした、異色の作品です。
各所で語られるように、主人公の堀越二郎には監督自身が反映されていると見るのが素直な解釈でしょう。飛行機趣味、眼鏡のコンプレックス、疎開時の経験をもとにした二郎の生家の描写、女性への憧れ、家庭をないがしろにしてしまうほどの仕事への情熱......。二郎の吸うたばこは、宮崎駿が愛する銘柄チェリー。プロデューサーとスポンサーに囲まれながらアニメを作っている宮崎駿と、軍部に戦闘機の開発を要請された二郎。
「自然に帰れ」と作中で伝えながらもファンをインドア派のアニメオタク化してしまう、そしてそれでも観客動員を求めて映画作りをやめられない宮崎駿の罪と罰。純粋なものづくりへの情熱から殺人兵器を生み出してしまう、しかも日本を勝たせるために作ったはずの戦闘機が、自爆特攻というかたちで若い命を奪ってしまう堀越二郎の罪と罰。
なぜ主人公の声優をあの庵野秀明に設定したのか
堀越二郎=宮崎駿説の極めつきは、主人公の声優を庵野秀明に設定したことでしょうか。堀越二郎=宮崎駿=作家の罪と罰を描くにあたって、さすがに自分で声優を務めるわけにはいきませんから、よく似た生き方をたどる弟子、庵野秀明を起用したのでしょう。
宮崎駿が初めて本音をさらけ出した自伝的映画『風立ちぬ』に点数をつけるとしたら、僕は100点満点中98点です。現時点での宮崎駿最高傑作だとも思っています。
だからでしょうか。岡田斗司夫ゼミでも、ほかの作品以上に頻繁に『風立ちぬ』に触れてきました。公開同年の2013年には、その時点での僕の解説をまとめた書籍『『風立ちぬ』を語る』も上梓しました。だいたいのことはその本で語っているので、気になる方はそちらもぜひ読んでみてください。
本章では、最近になって僕が考え直した新たな『風立ちぬ』解釈について語りますね。