今度は中国人にリアルな日本を知ってもらいたい
──監督は「中国政府のスパイだろ」と言われることもあるそうですね?
実際に会う人に言われたことはないですよ(笑)。でもネット上では「こいつは絶対中国政府から金をもらってる」とか言われることが多いですね。1円ももらってないですけどね。ドキュメンタリーは儲からないので、逆にもらいたいくらい(笑)。誤解が生まれる要因は、やっぱり相手のことを知らないからだと思うんです。
──とはいえ、劇中で「日本は奥さんを2人持てるんだろ」と話しかけてくるおじさんがいました。あのシーンは笑える場面でしたが、日本に対する中国人の誤解もあると思います。
そうですね。私が中国に移住した10年前は、尖閣諸島問題があって、今よりも日中関係が緊張していた時期でした。当時中国で流れていた日本関連の映像は、安倍元首相が自衛隊の閲兵式をしている場面。毎日そればっかりなんですよ。
すると、「日本は軍国主義なんだ」とか「怖いな」というイメージが植え付けられてしまいます。そんな映像、日本人はほとんど見たことがないと思うんです。イメージって、そうして作られていくんだなと思いました。
日本で流される中国の映像も、習近平国家主席が何かやっている映像ばかりだと思うんです。でも普通に暮らしている庶民は『再会長江』に出てきたように、怖がるところなどまるでない普通のおっちゃんやおばちゃんたち。毎日、生きるために頑張って仕事をして暮らしているだけなんですよ。日本人と同じです。
──監督の経歴もお聞きしたいです。学生時代、雑誌の「ロードショー」を読んでくださっていたそうですね?
はい、高校生の頃から読んでました!
──子供の頃から映画が身近にあったのでしょうか?
映画に熱中するようになったのは高校生からです。勉強が大嫌いで、学校の隣にあった図書館に毎日サボりに行っていたんです。その図書館に、映画を見られるコーナーがあって。当時はLDだったんですけど、名作映画が無料で見られたんです。そこで映画にハマってしまって。毎日学校に行くふりをして図書館に通っていました。
図書館には「ロードショー」もあったので、よく読んでいました。そこから自分も映画作りに関わりたいなという夢ができたんです。
とは言っても3年間ほぼ高校に通っていなかったので、当然勉強ができず、大学に行けるはずもなくて。だから映画製作の専門学校に通ったんですね。そこでドキュメンタリーに出会ったんです。
中国に移住する前は、テレビ東京の『ガイアの夜明け』や、NHKのドキュメンタリー番組など、日本でテレビ番組のディレクターをしていました。
──今後はどんな活動を?
『再会長江』で中国を横断したので、次は北海道から沖縄まで、僕のSNSのフォロワーの家に泊まりながらキャンピングカーに乗って日本を縦断します。
僕がそもそも中国で活動している理由のひとつが、今の中国を日本の人に知ってほしいということ。そしてもうひとつは、日本のことを中国の人に伝えたいんです。
さっき言ったように、まだまだ日本に対して誤解や偏見を持っている中国人がたくさんいるので、そういう人たちに向けて、今のリアルな日本を描きたいと思っています。
取材・文/ロードショー編集部
竹内亮 たけうち・りょう
1978年生まれ、千葉県出身。ドキュメンタリー監督。テレビ東京『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』、NHK『世界遺産』『⻑江 天と地の大紀行』などを製作。2013年に中国人の妻と中国に移住し、翌年南京市で映像制作会社「和之夢文化伝播有限公司」を設立。2023年Weiboの微博红人节(インフルエンサーアワード)で、4つの賞を受賞。「2022年度 最も商業価値の高いインフルエンサー」「2022年度 トップ動画クリエイター100」等に選ばれる。
竹内亮のドキュメンタリーウィーク
期間 :2023年5月19日(金)から5月25日(木)
場所 :角川シネマ有楽町(東京都千代田区有楽町1丁目11-1 )
公式サイト:https://www.wanoyume.com/jp/takeuchi-ryo-documentary-week
映画館ホームページ:https://www.kadokawa-cinema.jp/yurakucho/