なぜ、就活生は「怪しげな就活本」にハマるのか

――その一方で、本書を執筆して予想外だったことはありますか。

こう言っては何ですが、最近の就活本には「まともなもの」が多いことが意外でした。バブル期までの就活本は、大学教員やジャーナリストなどの就活を専門としない人たちが執筆していることが多く、内容も疑わしいものが少なくありません。

しかし、90年代には就活予備校が登場し、就活そのものをビジネスにする専門家が数多く生まれました。彼らが書いた就活本には学術的な研究を踏まえたものも多く、特に2010年代以降の就活本にはかなり合理的な内容が書かれています。

その一方で「人気企業に就職した」という経歴を掲げ、その経験をもとに就活のコツを伝授する作家やYouTuberも少なくありません。そうした人々の就活本は普遍的な知識に乏しく、あまりお勧めできないのが正直なところです。

「就活 つらい」という学生の期待水準を上げてしまう就活メディア。100年以上前から就活本は「最近の若者はダメだ」と書き続けているのに_2

――しかし、そうした人々に惹かれる就活生も多い印象です。

そうなんですよね。就活生にとっては、学術的な理論よりも「私はこうやって受かった」という体験談のほうが親しみやすいのでしょう。

例えば、2012年に『凡人内定戦略―自己PRするネタがない就活を複数内定で終わらせるために』(中経出版)という書籍が出版されています。この就活本のポイントは「凡人」をタイトルに掲げていること。著者が「凡人」だと自称し、自身の就活経験をもとに「凡人学生に特化した、内定を取るための戦略と戦術」を解説しています。

主張の根拠はほとんどが個人的経験で、決して汎用性が高いとは言えません。しかし、大半の就活生は自分のことを「凡人」と思っているため、親しみやすさを感じるのは確かだと思います。

「日本の若者は諸外国に比べて自己肯定感が低く、自信がない」という、内閣府の調査結果があります。就活においても「自分に自信がないので肯定してほしい」というニーズが根強いのでしょう。そうした人々には「こんな私でも就職できた」という就活本のメッセージがとても響きやすいのだと思います。