就活テクニックではなく、普遍的なキャリア教育を

――今後も就活は続くわけですが、就活という慣習や、学生を指導する大学の課題は何でしょうか。

まず就活自体の問題は「就活で学んだ知識が後の人生で活かしにくい」という点です。例えば、エントリーシートの上手な書き方を覚えたとしても、一度、就職すればエントリーシートを利用することは二度とありません。また、有名企業の内定を得た人の体験談をいくら聞いても、転職やキャリアアップに役立つ知識は身につかないでしょう。

就活が通過儀礼化していて、一回しか役に立たない知識を習得するのに膨大な時間が費やされている点は改善の余地があると思います。

また、昨今はキャリア教育を取り入れる大学が増えつつありますが、残念ながら「新聞を読んで社会の動きを知ろう」といった浅い内容に落ち着きがちです。大学の教員は各学問分野の専門家であり、キャリア教育は専門外なので仕方のない面もあります。だからこそ、キャリア教育の専門家などを招いて、大学で普遍的かつ学術的なキャリア教育を行う必要があると思います。

「どのようにキャリアを築けばよいのか」や「人生のなかにキャリアをどう位置づけるのか」といった知識を習得すれば、就活時だけでなく、その後の転職やキャリアアップの機会にも活用することができますから。内定を取るためのテクニックや戦略ではなく、人生のなかで長期的に役に立つ知識を提供していくべきでしょうね。

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――確かに、就活での経験がその後の転職にも生かせたらよいですね。

一回限りしか役に立たない知識が流通する背景には、新卒者と転職者が完全に区別されてしまう、日本のメンバーシップ型雇用が影響しています。ただしメンバーシップ型雇用にも、新卒者が就業経験のある転職者たちと競わなくてよいというメリットがあるんです。また、企業は一度の機会に多数の人材を採用できるので、採用コストを抑制できます。そのため、メンバーシップ型雇用を全廃すべきとは思いません。

しかし、新卒者の3割以上は3年以内に離職しているわけで、新卒者と転職者を完全に区別する必要もないと感じます。留学やボランティア、インターンシップなど、さまざまな経験をしてから職に就くような、新しい採用の形があってもよいでしょう。

――企業はもっと柔軟に人材を採用してほしいと。

そうですね。昨今は多くの企業が「柔軟な発想を持った多様な人材を求めている」と掲げています。それならば、多様な経歴の人材を受け入れられる柔軟な採用のあり方を模索してはどうでしょうか。


取材・文/島袋龍太

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